研究課題
本研究の申請段階では、子宮内の精子に障害をもたらす因子はプロジェステロンまたはその派生物と考えていた。しかし子宮内液中にステロイド骨格を持つ因子を網羅的に調べても精子を殺す作用を持つ因子は検出されなかった。そこで視点を変えて、子宮内でSVS2非存在時の精子細胞膜の破壊のされ方に注目した。子宮内において精子は細胞膜・核膜ともに破壊されていたが、完全に膜を欠失したものは少なく、比較的小さい穴が開いているものが多かった。このような穴のあけ方をする因子の一つに補体がある。そこで一般的に補体が失活するとされる56℃で30分間、子宮内液を処理したものを精子に作用させた。その結果、精子を殺す作用は失活することが明らかとなった。この結果から、子宮内の殺精子因子は補体関連因子ではないかと予測した。補体シグナルは複雑かつ関連する因子が多いことで有名である。そこで、多くの抗体を用いて補体を検出するよりも子宮内液に含まれるタンパク質を網羅的に同定することにした。その結果、子宮内液にもっとも多く含まれていたタンパク質は補体C3であることが判明した。その他にも補体関連因子やIgGなどシグナルに関連する因子が多く同定された。一般的に補体シグナルが活性化して抗原の細胞膜を破壊するまでに必要な因子の上流はほぼ子宮内液に含まれていることが分かったが、一方で、実際に細胞膜に穴をあける因子(C6,C7,C8,C9)は検出されなかった。補体C3が殺精子因子として機能しているかどうか確認するために、抗体を用いて免疫除去した子宮内液を精子に作用させたところ、殺精子効果は減弱することが明らかとなった。しかし一方で、精子を殺す状況下でC3は活性化していないことも判明した。これらの結果から、子宮内液に存在するC3が殺精子因子である可能性は高いが、その作用機序は通常の免疫機構とは異なる可能性があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当初の予想としては、子宮内のステロイド骨格を持つ因子が精子を殺す作用があると考えていたが、そのような因子は見つけることが出来なかった。しかし発想の転換により、その他の可能性のある候補因子を見つけるに至った。この候補因子は非常に有名な免疫関連因子であり、既に欠損マウスの報告がなされているが、顕著な表現型がないことでも有名である。しかし、私が解析している精嚢タンパク質SVS2を欠損した雄マウスと交尾した場合には表現型が出るのではないかと予想しており、その場合には、生殖と免疫をつなぐ新しい研究分野の創設につながるのではないかと期待している。
次年度は、子宮内の候補因子を確実なものとして同定し、更にはどのような作用機序で子宮内精子を攻撃しているのか、詳細に解析していく予定である。また、因子が同定できた場合には、ヒトにおいてもその因子の発言があるか確認し、さらに不妊傾向のある患者においてその量がどうなっているか、調べたいと思っている。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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