研究課題
放射線治療は頭頸部癌の治療において確立された効果的な治療法であり、その果たす役割は非常に大きい。放射線照射によって癌細胞は細胞死を生じるが、これまで放射線照射は、抗がん剤と同様に癌細胞とともに免疫系を構成する造血細胞にも細胞死を誘導することにより免疫抑制に働くと考えられてきたが、一部の癌細胞では放射線照射による癌の細胞死によって、細胞表面に免疫刺激分子の発現増強や、免疫シグナル分子の放出をきたすことがわかってきた。昨年までに頭頸部扁平上皮癌細胞株に放射線照射を行い、免疫関連分子の発現変化について検討したところ、Calreticulinの発現増強を認めるとともにCD47分子の発現低下がみられた。Calreticulinの発現増強はいわゆるimmunogenic cell deathを生じていることを示唆するが、今回は照射によって発現が低下したCD47についてその役割を調べた。CD47はdon't eat meシグナルであり、マクロファージなどによる貪食を阻害する作用がある。放射線照射によるCD47発現の低下は、マクロファージなどにより貪食されやすくなり、癌抗原提示が促進されると思われる。in vitroの系で頭頸部扁平上皮癌のCD47を抗体でブロックあるいはsiRNAで遺伝子発現を低下させるとマクロファージの貪食能が増強した。癌組織のCD47発現を免疫組織化学法にて検討、頭頸したところ、頭頸部扁平上皮癌でCD47発現が認められ、更に高発現症例の予後は不良であった。今後は放射線照射後の再発症例でのCD47の発現を解析することと、X線照射と重粒子線とでCD47の発現低下の比較検討を行っていく。
3: やや遅れている
昨年度は重粒子線が一時休止したため、利用できない期間があった。また、CD47の発現低下の実験は安定したデータを得るために、繰り返しの実験が必要であったこと、CD47の免疫組織化学法に適した抗体の探索に時間を要したことが挙げられる。
X線照射によるCD47発現の変化以外に、Calreticulinの局在変化、HMGB1の測定などは重粒子線照射と同時並行で施行していく。また最近はeat me シグナルなどについての研究も始めているので、これらについても本実験のターゲット分子として検討を加えていく。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)
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