研究課題/領域番号 |
26670759
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
外園 千恵 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30216585)
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研究分担者 |
羽室 淳爾 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (80536095)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 培養ヒト角膜内皮細胞 / 細胞亜集団 / EMT / メタボローム解析 / 解糖系エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
報告者らは、ヒト角膜内皮細胞 (HCEC) 培養において敷石状配列の分化成熟細胞形態を保持した成熟分化細胞への長期培養を撹乱させる一因が、培養HCEC が形質を異にする細胞亜集団で構成されていることにあることを見出している。本年度の研究により、内皮間葉系移行を介するc-Myc 陽性未分化幹細胞様増殖性細胞経路への相転移〔相転移1、脱分化〕とSA-β-Gal 陽性老化細胞〔相転移2〕への経路が分岐すると推定される結果を得た。主たる判断根拠は相転移2細胞亜集団と成熟分化細胞亜集団は、Rock阻害剤により可塑的に形質を返還することが判明したことである。 ミトコンドリア呼吸 vs 解糖系というエネルギー産生経路の違いが分化成熟細胞〔エフェクター細胞〕と相転移細胞1と2の間に認められることが、メタボローム解析により判明した。相転移細胞1,2ではグルタチオンの生合成系が顕著に低下し、酸化ストレスの亢進が想定された。解糖系上流産物が高値を示し、糖取り込み及び解糖系代謝が亢進していることが判明した。 グルコース(Glu)、グルタミン(Gln)代謝経路を活用しての細胞亜集団の選別は、Glu飢餓では相転移2細胞が除去できることが判明したが、Gln飢餓には効果は全く認められなかった。 今後は、免疫染色法を駆使してc-Myc・P53・CD44・酸化ストレスの機能発現の差の視点から相転移の分子動態を解明するとともに、分泌産物についてのメタボローム解析も実施する。角膜内皮障害の病態について、細胞内代謝の側面から斬新な臨床評価科学視点を提供する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①酸化ストレス→GluやGln代謝経路→同化作用の促進(Mitsuishi Y, Cancer Cell, 2012)経路との係りの解明について、分子レベルでの解析には到達しなかったが、細胞の播種密度を下げることで、細胞空間が拡大すること対応して細胞老化指標SA-β-Gal発現が亢進することを確認した。この知見を培養条件の設定につなげることができた。 ②細胞亜集団X, Y, α,βの細胞系列をEndoEMT→Stemness経路かSenescence経路に属するか検定する。 多能性関連蛋白、増殖関連蛋白としてc-Myc, p53、EndoMT関連タンパク、バリアー機能関連蛋白の免疫染色を細胞亜集団の3種について実施し、各々成熟分化角膜内皮細胞、EndoEMT経由→未分化幹細胞様増殖性細胞、細胞老化亜集団の3種に分類できた。以上について、細胞内、細胞外分泌産物についてメタボローム解析を行い、この3種が全く異なるプロファイルを示すことを見出したことは、予想以上の進展である。細胞亜集団の同定に代謝産物を用いることの有用性を確認できた。 Glu, Gln飢餓を含む栄養飢餓による細胞亜集団の選別効果を、CD抗原を中心とする細胞表面抗原6~8種の組み合わせで実施した。Glu飢餓での選別は出来たが、Gln飢餓での選別は出来なかった。老化細胞はGlu飢餓で除去できるが、この方法でも成熟分化細胞亜集団と相転移1細胞亜集団との選別は不十分であった。相転移2細胞亜集団が、嫌気的解糖系をエネルギー代謝系に使っているとのメタボローム解析結果と合致する結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ予定通りの進捗であるので申請計画書の27,28年度予定〔下記〕に準拠して進める。①亜集団α、βにおいてGlu 代謝経路優位のエネルギー産生に及ぼすCD44 の効果と本亜集団のStemness 様細胞増殖機能とを対応付ける(26~27 年度)。②Glu代謝経路の人為的介入により成熟分化ヒト角膜細胞(分化エフェクター細胞)のみを選別培養する方法を確立する(26~27 年度)。③ 亜集団X の多集団への相転移の抑制方法の創出する(27~28年度) ④フックス角膜内皮ジストロフィー(FECD)患者由来の検体にて上記知見を確認し、診断への応用可能性を探る(27~28年)⑤角膜内皮移植長期患者において前房水、血液成分により、細胞老化、若しくは、EndoEMT→Stemness 経路に係る可溶性因子を検証する予備実験を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画書で予定した「酸化ストレス→Glu代謝経路→同化作用の促進(Mitsuishi Y, Cancer Cell, 2012)経路との係りの解明」について、分子レベルでの解析には到達しなかった。このための費用を繰り越し、27年度に使用予定とした。
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次年度使用額の使用計画 |
計画書記載の通り、細胞培養試薬、蛋白解析試薬、網羅的解析チップ(miRNA)、解析ソフト、FACS 解析用試薬、研究用輸入眼球にほぼ予定通りの経費を充当する。同時に繰り越し分でメタボローム解析を実施する。
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