本研究では視力と最も関係の深い網膜黄斑部に存在する細胞群の特徴を遺伝子発現の観点から理解し、黄斑に関連した疾患の発症機序解明や網膜細胞移植への応用を目指している。従来の動物細胞、ことにマウスや鳥類では黄斑がなく、黄斑の研究を行うにあたり必然的にヒト細胞での評価系が必要とされた。前年度、我々は生体の発生過程を模した多能性幹細胞から網膜多層構造形成のプロトコルを基に眼胞様構造をもつ胚様体を平面培養に展開することによって、網膜細胞前駆体の網膜神経節細胞への運命決定を促進し、高密度に網膜神経節細胞が集積する領域形成に成功した。網膜神経節細胞は黄斑領域において視細胞と並んで高密度に存在し、黄斑の形成、機能に密接にかかわる細胞であり、これまで分化誘導研究が比較的進んでいた視細胞に加えて、in vitroで網膜神経節細胞の生成や機能に関わる遺伝子を解析する道が開けた。 本年度は手術検体から分取された網膜を黄斑領域と周辺部に分け、マイクロアレイにより発現プロファイルを比較解析した。周辺部との比較で10倍以上高い発現を示し、定量PCRにより検証できた遺伝子が8遺伝子あった。その中には視細胞障害への関与が既に報告されている遺伝子や網膜成熟に関与する遺伝子も見られた。現在、これらの遺伝子の網膜形成過程における発現変動や局在について、ヒト多能性幹細胞を起点とした網膜分化誘導系で解析を進めている。黄斑領域で特徴的な発現を示す遺伝子と黄斑を構成する細胞の生成や特性、そして黄斑疾患とのつながりを探索していく予定である。
|