研究課題
近年、高度多剤耐性を示す緑膿菌(MDRP)による感染が増加しており、新しい治療法の開発が求められている。期待される特異的な抗体療法の中で、重鎖(H鎖)のみで形成されている単一鎖抗体(VHH抗体)が自然界においてラクダ等で発見されたことから、抗原認識の最小単位としての単一ドメイン抗体(sdAb)が感染症に対する新しい抗体医薬品として期待される。緑膿菌は、多くの病原性グラム陰性桿菌と同様に、Ⅲ型分泌システムを用いて毒素タンパクを標的真核細胞の細胞質へ直接転移させることで病原性を発揮するが、この分泌装置の構造タンパクであるV抗原(PcrV)に対する抗体が分泌毒性を抑制できる。今回、この緑膿菌PcrVに対する遺伝子組換え単一ドメイン抗体を作成し、緑膿菌の感染症に対する新しい抗体医薬品としての可能性を探求した。近年、抗体医薬品は癌や免疫疾患などの領域において有効性が示されているが、感染症に対してはほとんど利用には至っていない。一方、1993年にラクダやラマで一組のH鎖のみで構成されるVHH抗体が発見され、有効な抗原認識にはH鎖とL鎖が必要であるという常識が覆された。VHH抗体の抗原結合ドメインは、抗原認識の最小単位抗体である単一ドメイン抗体として、①従来の抗体が結合しにくい抗原部位への作用、②迅速な組織への浸透性、③微生物(細菌や酵母)での易発現性など、従来の抗体との比較で有利な特徴を持つ。この単純な分子構造を持つsdAbを広く抗体医薬品として利用することが期待されている。そこで、今回はマウスのモノクローナルIgG抗体産生ハイブリドーマより、クローニングした抗体遺伝子用いて遺伝子工学的に単鎖抗PcrV抗体を遺伝子組換え抗体として作成し、ポリクローナルやマルチクローナルを視野に入れた臨床応用を考えた研究を実施した。その結果、単鎖抗体は今後、細菌感染症制御が関わる様々な分野において活躍できる可能性が示唆された。
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