研究課題/領域番号 |
26670792
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
堀 進悟 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (80129650)
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研究分担者 |
佐野 元昭 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (30265798)
鈴木 昌 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70265916)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 水素ガス吸入 / 抗酸化作用 / 臓器不全 / 心停止後症候群 |
研究実績の概要 |
本研究では、心停止蘇生後症候群の増悪病態における、全身性炎症反応の進展、血管内皮障害および免疫生体変動、Microparticle生体内変動、またそれぞれのクロストークのよる全身臓器障害の発症機構の解明を模索する。まず、ラット大量出血性低血圧による臓器障害モデルを用いて、全身性サイトカイン変動および、心筋、肺、肝臓、腎組織変化および免疫細胞動態を検討した。抗酸化作用を有する水素吸入を行った群では、酸素吸入群と比較して、循環動態、動脈血pH,BE,乳酸値に差を認めかったが、2時間生存率を優位に改善した(85.7%VS46.2%)。水素吸入群では、大量出血2時間後の血清IL-6値および、dROM/BAP値は優位に改善した。さらに、対照群では肺組織におけるびまん肺胞損傷,肺胞内の好中球,赤血球,細胞壊死組織片,および硝子膜形成を伴う上皮基底膜好中球の浸潤およびを認めたが、水素吸入群ではこれらの所見が軽減した。 次に、ラット心肺停止モデル用い、7日間生存、脳機能検査、脳組織の検討を行った。蘇生後に水素吸入群は、脳機能スコアおよび生存率が対照群と比して著しく改善した。水素ガスの吸入効果は、低体温療法とほぼ同等であり、さらに水素吸入と低体温療法を併用することによって最も顕著な改善効果を認めた。また、水素吸入により認知機能低下が抑制され、低体温療法と水素吸入を組み合わせることにより最も高い効果を認めた。さらに、蘇生7日後の脳組織において、脳海馬における生神経細胞数、軸索損傷、ミクログリア、および大脳皮質の神経細胞変性やアストロサイトの変化を各グループ間で比較しました結果、対照群では神経細胞死や炎症反応が著明に増加したのに対し、水素吸入群では、それらが抑制された。さらに低体温療法と水素吸入を組み合わせることにより最も高い効果をみとめ、行動実験や生存実験の結果を裏付けるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大量出血性ショックモデルおよび心停止蘇生後症候群モデルの異なる2つの重症病態モデルを用いて、全身性炎症反応、免疫細胞生体変動が、循環動態、認知機能および生存率に及ぼす影響を明らかにし、さらに新規抗酸化物質として近年注目されている水素ガスにより、これらが軽減できることを見出し、これら重症病態に対する新たな治療標的になりうる可能性画示唆された。一方、上記結果を見出すことに時間を要したたため、Microparticle生体内変動や網羅的オミクス解析には至っておらず、今後の遂行目標とする。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、重症病態における全身性炎症反応の進展、血管内皮障害および免疫生体変動、Microparticle生体内変動、またそれぞれのクロストークのよる全身臓器障害の発症機構の解明を行う。具体的には、上記モデルを用いて今後、Microparticle生体内変動や網羅的オミクス解析を検討する。また、水素吸入の重症病態への治療応用を目指した研究を並行的に遂行する。水素吸入は高度の医療技術を必要としないため、大学病院や救命救急センター以外の、より多くの病院でも導入が可能である。さらに水素吸入は、心肺蘇生法の妨げにはならず、現在有効性が確認されている低体温療法と併用することによって治療効果の向上が期待でる。今後の研究をさらに発展させることにより、心肺停止蘇生後患者の生命予後の改善や脳機能障害の軽減に多大な貢献をもたらすことが期待され、その社会的意義は大きいと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進行状況により、予定していたflow cytometry, 網羅的オミクス解析が行えず、それらに予定していた予算が使用できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
大量出血性モデル、蘇生後モデルを用いて、血中、骨髄中免疫細胞、血管内皮細胞や各臓器組織を用いて、マイクロパーティクルの生体変動が各臓器不全に及ぼす影響を、flow cytometry, 網羅的オミクス解析を用いて検討する。
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