研究課題/領域番号 |
26670797
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
網塚 憲生 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (30242431)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 骨細胞 / 骨芽細胞 / 前骨芽細胞 / PTH / ミニモデリング / 骨細胞性骨溶解 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
平成26年度の研究概要は、(1)PTHが骨細胞ネットワークを介してミニモデリングを制御するメカニズムの解明、(2)PTHが骨細胞周囲の骨基質を溶解・再石灰化するメカニズムの解明の2点である。(1)に関しては、野生型マウスに20μg/kg/day,80μg/kg/day, 80μg/kg/doseのPTH(1-34)を、2日に1回、1日に1回、1日に2回、1日に4回の2週間投与した実験を行っている。各種の組織化学、および、透過型電子顕微鏡にて解析したところ、ミニモデリングは、PTH投与頻度が低い群で誘導されること、細胞学的メカニズムとして、前骨芽細胞の増殖ではなく、休止期骨芽細胞が活性型骨細胞へと変化し、基質合成を誘導することを明らかにした。また、(2)に関しては、マウスの腎動静脈を結縛した後にPTH投与すると、その直後1時間以内に、血中カルシウム濃度が上昇することを確認している。骨細胞は、細胞性ネットワークを形成しており、作られたばかりの海綿骨よりも成熟骨である皮質骨において規則的な配列を示し、また、より機能的な細胞ネットワークを形成していると考えられている。その結果、皮質骨におけるいくつかの骨細胞において、骨小腔の拡大、骨細胞周囲の基質の流出を組織化学・電子顕微鏡観察にて確認することができた。このメカニズムとして、腎臓型プロトンポンプが関与している可能性を獲得しつつある。また、PTH投与による骨細胞周囲の基質の性状変化について、原子間力顕微鏡を用いて解析すると、形態学的に目に見えなくとも、PTH投与後の骨細胞周囲の基質の弾性係数が低下していることも明らかにしている。さらに、この現象については、破骨細胞による関与を除外する必要があるため、破骨細胞が存在しないRANKL-/-マウスでも同様の実験を行ったところ、野生型マウスと同じ結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究概要として、(1)PTHが骨細胞ネットワークを介してミニモデリングを制御するメカニズムの解明、(2)PTHが骨細胞周囲の骨基質を溶解・再石灰化するメカニズムの解明の2点を掲げた。(1)に関しては、マウスを用いた動物実験であるが、実験系が複雑ではないため、PTH投与によるミニモデリングの誘導を確認・再現することができている。さらに、PTH(1-34)を、2日に1回(48時間ごと)、1日に1回(24時間ごと)、1日に2回(12時間ごと)、1日に4回(6時間ごと)と、細かくタイムスケジュールを取って解析した結果、PTHの間歇投与の投与時間が異なると、前骨芽細胞の細胞増殖に大きく影響することを明らかにした。ミニモデリングを誘導する細胞学的機序として、前骨芽細胞が増殖しすぎると破骨細胞形成に作用するが、骨芽細胞への分化スピートにあった細胞増殖を行うことで、ミニモデリングに適した状況を作り上げていると考察している。また、ミニモデリングにおける骨細胞の関与としてスクレロスチン産生が減少していることを組織化学的に明らかにしているが、その細胞間コミュニケーションとしてどのようなシグナルが関与しているかは今後の検討となると考えられる。一方、PTHの長期間投与(間歇投与)に関しては、(1)にも掲げた骨形成を誘導するが、PTH投与直後における骨細胞・骨小腔の変化に関しては、(2)で掲げたPTHが骨細胞周囲の骨基質を溶解・再石灰化するメカニズムの解明が必要と考えた。このテーマに関する解析結果として、皮質骨の一部の骨細胞ではその周囲の骨基質ミネラルが流出すること、また、電顕レベルで骨細胞がプロトンポンプを有するようになること、さらには、その周囲の骨基質が脱灰されたような構造を呈すること、さらに、破骨細胞の関与も排除できることから、予想以上に、解析が進んだものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の研究課題は、概ね予定通りに進めることができたが、得られた所見をさらに発展的に考察したときに、新たなる課題点もでてきている。(1)に関しては、PTHは前骨芽細胞の細胞増殖に作用し、低頻度投与PTHにより破骨細胞形成を促進させないことで、骨リモデリングではなく、ミニモデリングを誘導させることが理解できた。しかし、骨組織の骨梁全てで起きているのではないため、ミニモデリングが生じる部位はどのように制御されるのかが興味深い。そのため、マウス・ラットでの骨に対する有限要素解析が可能か試行することで、メカニカルストレスが付与されている局所部位にミニモデリングが誘導されるか否かを明らかにする必要があると思われる。また、骨細胞ネットワークにおいて、スクレロスチン産生の低下が大きなカギを握ると思われるが、それ以外の因子が関与していないか、検討する必要があると考えている。さらに、ミニモデリングは活性型ビタミンD3によっても誘導されることが知られているため、PTH投与と活性型ビタミンD3投与におけるミニモデリングの異同についても解析する必要を感じている。また、(2)における課題点は、骨細胞性骨溶解の現象は、PTHに限った反応だけでなく、血中のカルシウムの速やかな供給を行うためのシステムと考えており、追加実験として授乳期マウス(低カルシウム餌群および正常カルシウム餌群)における同様の現象を別途、検索し始めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年3月に納品され、平成27年4月の支払いとなった消耗品があったため。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額は、平成27年3月に納品された消耗品の平成27年4月支払いに充てる。
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