前年度確立した新たな歯の発生ステージを利用して、更なる実験を遂行した。帽状期は、歯胚のサイズを大きく変えることなく形態変化を起こした後に、歯胚の容積を増やしながら形態を変化させていくことが明らかとなった。帽状期での最大の変化は歯胚辺縁部の隆起であった。そこで、頬舌側の辺縁部それぞれから、レーザーマイクロダイセクションによりRNAを採取し、それぞれ特異的な分子の同定を試みた。特に、歯胚のサイズを変えることなく、歯胚の形態を変化させた時期の比較には注意を払った。マーカーとなり得ると推察された分子は複数あったものの、発現部位を確認したところ、違う重さの胎仔の歯胚の他の部位に認められるなど、マーカーとなりうる分子の同定には至らなかった。また、発生スピード関連遺伝子を同定するために、体重によりグループ分けした正常マウスの下顎を、各器官培養法にて培養し、得られた組織における歯胚の三次元解析を行った。しかし、培養後の形態が、正常マウスのいかなる体重の胎仔でも認められる形態ではなかった。それらの形態は、通常の歯の分子発生メカニズム研究には支障のない程度の軽微なものであったが、本研究目的にはそぐわないものであった。これらのことは、発生スピード関連遺伝子の同定には、3次元レベルで、完全に正常な発生を誘導する器官培養法の確立が必要であることが示された。
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