研究課題/領域番号 |
26670810
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
二ノ宮 裕三 九州大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (50076048)
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研究分担者 |
重村 憲徳 九州大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (40336079)
吉田 竜介 九州大学, 歯学研究科(研究院), 講師 (60380705)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 味覚 / 脂質味 / 脂肪酸 / 嗜好 / 高脂肪食 / 耽溺性 |
研究実績の概要 |
現代の食の高脂肪・高甘味化は、恒常性を破綻に導き、肥満者増加の主要因となっている。しかし、脂質の味がどのように伝えられ、なぜ強く好まれるのかは未だ不明でありその基本原理の解明が急がれる。そこで本研究は、課題1) 脂質特異的味受容細胞が存在するか、課題2)脂質特異的情報を脳に伝える神経線維が存在するか、課題3)食餌依存的な脂質嗜好変化が味応答のLep/eCB調節系変化と連関するかを検索し、脂質への高嗜好性形成のシグナル受容・調節・伝達の分子神経機構を探求する。本年度はその中で課題1)と2)について行った。 課題1)では、味細胞応答の解析に必要な脂肪酸受容体GPR120発現細胞を蛍光標識したGFPマウスの作出を行った。現在までにGFP抗体による発現確認ができているが、その発現の強度が若干弱く、単離味蕾の標本で単一細胞の可視化とその応答測定を可能にするに充分なレベルには至っていない。GFPマウス作出過程でGFP発現強度のより高い系列のマウスを選別する必要がある。 課題2)ではマウス鼓索神経の単一味応答線維を剖出し、その脂肪酸や他の5基本味物質の舌刺激に対する応答のプロファイルを解析した。その結果、単一神経線維35本の中でオレイン酸もしくはリノール酸に何らかの応答を示した線維が18本あり、その中で、脂肪酸ベストの応答を示すものが6本存在した。また、Naベスト線維6本中0本、Caベスト線維4本中3本、甘味ベスト線維9本中4本、うま味ベスト線維3本中3本、苦味ベスト線維1本中0本、電解質ベスト6本中2本が応答を示した。この結果から、まず脂肪酸を特異的に応答する線維が存在すること、その他の応答線維もうま味・Ca・甘味ベスト線維であり、嗜好性の高い味情報と連関していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では課題2)が最も重要性の高い研究課題となっている。すなわち脂肪酸の味情報を脳に伝える経路が存在するか否かを決定することができるからである。本研究でこの脂質の味情報を伝える特異的な経路の存在が明らかになった。この結果は、旧来の謎を解く極めて新規性の高いものであり、味研究領域の特に基本味という概念を広げるブレークスルーになる可能性のある発見といえる。また当然、その背景には特異的な受容体(申請者らはすでにその存在をGPR120/40遺伝子欠損マウスを使い明らかにしている)とそれを受容する味細胞が存在することを示している。この結果より、味細胞の存在の証明する課題1)はその確認作業になり、その研究の重要性は低下する。 また、脂肪酸ベストではないものの、応答した線維群が甘味・うま味・Ca(「こく」に関与する可能性が示唆されている)ベスト線維であり、いずれも高嗜好性をもたらす味情報と連関し、脂肪の高嗜好性を強める要素になっている可能性が示唆される。また、甘味・うま味・Caの受容に共通してT1R3が関与することが報告され、かつその細胞内経路にはDAG/IP3系が含まれ、DAGに酵素(DAGL)が働くとエンドカンナビノイド(2AG)が合成されることから、それによる応答の自己増強回路の形成の可能性も示唆され、新たな研究展開の可能性も浮上している。これらの点から、本年度研究で、脂肪酸味情報研究の大きな基盤が形成でき、かつ研究の最も有効な方向性が定まりつつあり、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
課題2)で得られた脂肪酸特異的な味情報経路の存在の発見は極めて重要で、上記のように、一本の脂肪酸特異的味神経線維が数個の味細胞からの情報を受けているとしてもそれら味細胞はすべて脂肪酸特異的応答性を持つものであることを示唆している。このことは現在マウスの作出過程で若干難航している課題1)の味細胞による応答特性の解析の持つ意味を低下させる。また、脂肪酸が特異的応答線維以外では甘味・うま味・Caベスト線維であることから、味細胞における解析はむしろT1R3を中心とする分子発現の脂肪酸受容体とのオーバーラップに焦点を当てるべきであることが示唆される。それと同時に味神経線維での応答解析の中で、脂肪酸ベストや脂肪酸応答味神経線維の特性についても受容体アンタゴニストなどを用いた詳細な解析を行い、その受容経路や他の味との連関性について検索し、新規性の高い結果に繋ぐべきであると考えられる。また、脂肪酸応答と甘味・うま味・Ca受容系とのオーバーラップは、それらが共通して持つT1R3経路の下流分子を標的にしてLep/eCBによる修飾うけることから、脂肪酸応答のLep/eCB系による修飾解析に大きな意味を与えるものとなる。 また、脂肪酸特異的味覚神経線維の発見は、今後の高脂肪食摂取による変容の解析過程がより解釈のしやすいものになり、極めて大きな意味を持つものとなると予想される。 これらのことから、課題2)を上記の視点でさらに追及し、課題1)は味細胞の分子発現とそれら機能分子のオーバーラップを課題とする。課題3)はまずLep/eCBの修飾効果を確認した後に、食餌摂取によるその変容を解析する。
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