研究課題/領域番号 |
26670831
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
水口 俊介 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (30219688)
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研究分担者 |
佐藤 佑介 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (10451957)
金澤 学 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (80431922)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 義歯に加わる力 / 義歯の変位 / 無歯顎患者 / SPH法 / 大変形 / 粘弾性 / 義歯安定剤 |
研究実績の概要 |
咀嚼機能時に、食塊や人工歯を介して、義歯に加わる力やそれによる義歯の変位を解析し、デンチャースペースの中でどこに咬合平面や人工歯を配置すれば、最も義歯の変位が小さくなるかを数値シミュレーションの手法により明らかにするため,無歯顎患者の顎堤や周囲軟組織の形態を、数値解析可能な3次元モデルに構築し,新たな数値解析の手法であるメッシュレス解析すなわちSPH法(Smoothed Particle Hydrodynamics Method)により義歯との力学的関係を解析するものである。SPH法では、非線形(大変形、粘弾性、破壊)を伴う固体、流体、紛体のシミュレーションも可能であり、工業分野において、従来のFEMでは計算不可能な問題をシミュレーションできる手法として注目されている。歯科分野には粘膜や印象材、裏装材など、粘弾性を有する解析対象が多々あり、SPH法は今後非常に有効なシミュレーション手法になると考えられる。しかし、現在のSPH法では歯科分野の解析で必要となるような、精度の良い高次の力学モデルを適応した粘弾性解析はまだ確立していない。本年は歯科領域、口腔領域におけるSPH法による適切な解析条件の検討を行った。使用したモデルとしては義歯床下に密着タイプの義歯安定剤の層を設定し、咬合力が加わった際にどのように義歯安定剤が流動するかを解析し、その過程で適切な解析条件の検討を実施した。シミュレーション結果より、どの条件下においても密着型安定剤は咬合力の床下粘膜への伝達を分散、減弱させる一方で、その厚みにより義歯を偏位させ、除荷終了後も床下粘膜全体を僅かに圧迫し続ける結果となった。また、安定剤の塗布量が多いほど0-0と比べて、荷重時における最大沈下時より、除荷終了時の方が義歯の変位量がより大きくなる傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
柔らかく不定形に変形する物体のシミュレーションには、近年粒子法が用いられていれる。そのような粒子法の一種であるSPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法は、宇宙物理学の分野で銀河系の衝突や天体の形成の計算の為に生まれたシミュレーション方法であり、物理理論に忠実な計算を行うという特徴をもつ。現在のSPH法では、非線形(大変形、粘弾性、破壊)を伴う固体、流体、紛体のシミュレーションも可能であり、工業分野において、従来のFEMでは計算不可能な問題をシミュレーションできる手法として注目されている。歯科分野には粘膜や印象材、裏装材など、粘弾性を有し不定形に変形する解析対象が多々あり、SPH法は今後非常に有効なシミュレーション手法になると考えられる。しかし、現在のSPH法では歯科分野の解析で必要となるような、高次の力学モデルを適応した粘弾性解析はまだ確立していない。本研究ではSPH法による高次の力学モデルを適用した粘弾性解析プログラムを開発し、患者が密着型安定剤を説明書に従って上顎総義歯に塗布し、装着した場合に、咬合関係と粘膜にどのような影響を及ぼしているのかを数値的に検証した。弾性計算と6要素以下のvoigtモデル粘弾性計算が同時に可能なSPH法プログラムをFORTRANにて実装した。粘弾性体のクリープ現象と、応力緩和現象を表現する力学モデルに、一般化maxwellモデルと一般化voigtモデルが存在する。従来より生体には一般化voigtモデルが適していると言われ、歯科の分野でも顎底粘膜の解析に一般化voigtモデルを使用した研究が過去に行われている。本研究ではSPH法の基本アルゴリズムに、有限要素法における一般化voigtモデルの定式化を内挿し、6要素のvoigt粘弾性解析アルゴリズムを実装した。
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今後の研究の推進方策 |
FEMは工学的に、面の平衡方程式をもとに計算を行うのに対し、SPH法は物理学的に悉点のニュートン運動方程式をもとに計算を行う。よってSPH法は物理理論に基づいて、より現実にフィットした計算を行うという長所があり、FEMでは解析が困難となる面を持たない物体、つまり不定形に変形するような物体の解析にも適している。 今回の研究で対象とした、義歯安定剤や口腔粘膜はSPH法に適した解析対象であると言え、またSPH法に高次の粘弾性解析を実装したことにより、今後は生体など、同様の解析対象を有する他分野への応用も見込まれる。また、今回のシミュレーションを踏まえて、材料定数の設定を変えることにより、より安定剤として望ましい物性値を探り、材料開発における指標として扱う可能性も考えられる。 またSPH法での大変形を伴う動的粘弾性計算の短所は膨大な計算量を必要とすることである。工学的な諸問題と比較して動きの遅い人体を、荷重条件で計算するには多大な時間が必要となり、今回の研究では、4.0GHzのCPUで粒子数108070の4-4mm model解析終了までに135時間を要している。同問題について、3次元での解析を実用可能にする為には、計算時間の短縮が必須であり、GPU化による並列計算が今後望まれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
SPH法での大変形を伴う動的粘弾性計算の短所は膨大な計算量を必要とすることである。工学的な諸問題と比較して動きの遅い人体を、荷重条件で計算するには多大な時間が必要となり、今回の研究では、4.0GHzのCPUで粒子数108070の4-4mm model解析終了までに135時間を要した。したがって更に進展したモデルの作成の必要性が判明したが、本年度にそのモデル製作を実施することはできなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今回の研究で対象とした、義歯安定剤や口腔粘膜はSPH法に適した解析対象であると言え、またSPH法に高次の粘弾性解析を実装したことにより、今後は生体など、同様の解析対象を有する他分野への応用も見込まれる。また、今回のシミュレーションを踏まえて、材料定数の設定を変えることにより、より安定剤として望ましい物性値を探り、材料開発における指標としてオールラウンドに扱う可能性も考えられる。この問題について、3次元での解析を実用可能にする為には、計算時間の短縮が必須であり、GPU化による並列計算が今後望まれる。したがって現在の演算能力の向上のために使用する予定である。
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