研究実績の概要 |
【目的】顎関節症患者に対する開口訓練や認知行動療法などの非観血的な治療法には世界的にコンセンサスが得られている.しかし,疼痛に対する治療効果には患者間でバラつきが存在し,その要因は十分に解明されていない.そこで,顎関節症患者の痛みの程度の変化を基に,その長期経過に影響を与える因子について検討した. 【方法】対象は2003年4月から2013年3月までの間に大阪大学歯学部附属病院に来院した顎関節症患者500名とし,郵送法によるアンケートを実施し,研究参加への同意の得られた女性59名を選択した.初診時と現在における顎の痛みについてのVisual Analog Scale の変化量を従属変数とし,Symptom Checklist-90-Revised (SCL-90-R)の下位尺度,担当医に対する信頼度,指導内容に対するコンプライアンスを独立変数とする重回帰分析を行った. 【結果】痛みの程度の変化量と,初診時のSCL-90-Rの身体化の値(r = -0.274, P = 0.033),担当医への信頼度(r = 0.390, P = 0.001),指導へのコンプライアンス(r = 0.321, P = 0.009)との間に有意な相関関係が認められた.痛みの程度の変化量を従属変数とし,その他3変数を独立変数とする重回帰分析を行った結果,標準偏回帰係数βは,初診時の患者の身体化の値ではβ = -0.276 (P = 0.035),担当医に対する信頼度ではβ = 0.356 (P = 0.028),治療へのコンプライアンスではβ = -0.048 (P = 0.77)であった. 【結論】顎関節症患者における疼痛の長期予後は,初診時の身体化の程度と担当医に対する信頼度により影響を受ける可能性が示唆された.担当医に対する信頼度は非特異的な治療効果と考えられ,慢性痛治療におけるその重要性が示された.
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