インプラント周囲炎は,現在,歯科が抱える大きな問題の一つとして取り上げられ,有効な予防法・治療法の開発が切望されている。インプラント/歯肉接合部に薬剤を送達し,かつ,薬剤が低濃度の時のみ機能するドラッグデリバリーシステム(DDS)があれば,殺菌剤など為害性の強い薬剤も効果的に使用でき,インプラント周囲炎の予防・治療のブレークスルーになることは間違いない。しかし現在まで,薬物濃度を検知して機能するDDSは全くない。本研究では,申請者が開発した多糖誘導体リン酸化プルランと殺菌剤である塩化セチルピリジニウム(CPC)の複合体が,濃度変化に伴いイオン結合から疎水性相互作用へと会合状態を変えることに着目し,(1)インプラントの母材であるチタンへのCPC送達性ならびに(2)CPCとの会合体の構造変化と抗菌効果を検討することにより,濃度を検知して抗菌効果を発現するインプラント周囲炎の予防・治療薬創製を目指した。特に本年度は,昨年度の成果に基づき,実用化に必要となる合成法や添加物の影響を検討した。 これまでは,170℃加熱合成したリン酸化プルランを中心に開発を進めてきた。しかし,リン酸化度や分子量の制御が難しく,製品に使用するような安定供給が難しいことがわかった。加熱合成したリン酸化プルランに比べて,試薬を用いて常温合成したリン酸化プルランは,リン酸化率や分子量がコントロールしやすく,製品化には向いている。反面,試薬を用いた常温合成のリン酸化プルランは,加熱合成より得られた物に,キャリアとしての性能で劣るという弱点があった。しかし,合成条件を検討した結果,より安価に低分子のリン酸化プルランを得る合成法を見出すことができ,製品化に向けた大量合成への突破口も開けた。さらに,添加物に関しても,抗菌機能を落とさない賦形剤と添加量に関して有用な知見が得られた。今後はこれらの成果を基に実用化を目指す。
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