研究課題/領域番号 |
26670851
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
菊池 和子 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (40326690)
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研究分担者 |
藤原 尚樹 岩手医科大学, 歯学部, 准教授 (20190100)
大津 圭史 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (60509066)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 休眠ホルモン / 細胞の保存 / 組織の保存 / ATP / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
昆虫が休眠するときに発現する休眠ホルモンが細胞の増殖や生活活性を低下させ、長期間安定的に細胞を維持する機能をもつことから、これを応用した組織保存液が開発できないかを目的に研究を行った。昆虫の休眠ホルモンは,代謝を低下させることによって細胞を休眠状態すると考えられているが,その現状はよくわかっていない。そこで,岩手大学鈴木教授が精製・開発したヤママリンあるいはスーパーヤママリンを用いて,その効果を確認するための実験系の開発に取り組んだ。一つは,細胞内のATP量をリアルタイムで観察できる培養細胞株と細胞周期をリアルタイムで観察できる細胞株の開発である。培養細胞としては,歯胚の保存を想定して,エナメル上皮細胞株mHAT9dを用いた。この細胞にATPの結合によってフレット現象を起こすATPプローブ(Ateam)を発現するプラスミドを導入した細胞株mHAT9d/Ateamを作製した。この細胞にスーパーヤママリンを加えたところ,細胞の増殖状態,細胞の密度などに依存した状況でFRET現象が生じることから,このホルモンの効果には細胞の状態によってばらつきがあることが明らかとなった。今後はその条件について詳細に検討を行う。さらに,細胞周期を観察できるFucci導入細胞を用いて,あるいはFucciマウスから分離培養したエナメル上皮細胞株を用いて,このホルモンが細胞の周期に与える影響を検討した。しかし,最初に予想した「すべての細胞の周期が停止する」のはないかという予想に反して,同じ種類の細胞でも多様な反応を示すことが明らかとなった。今後,細胞並びに組織の保存ためにこのホルモンを使うためには,細胞に対して効果的な条件を見出すことが重要であり,次年度はそれに向けて検討を行うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題の申請時期にはまだなかった細胞内のATPをリアルタイムで観察できる技術を今回の研究において導入できたため,細胞保存や組織保存の効果的な判定技術の開発として大きな成果であった。しかし,従来の予想に反して,このスーパーヤママリンは細胞の培養条件や細胞の密度,増殖度によって効果にばらつきが生じるという問題が見つかり,均一な効果が得られるための条件を見いだせねばならないという新たな課題が見つかった。またアポトーシスの有無についての実験は遅れている。このような経緯から,研究の進捗としては概ね順調に進んでいるが,目的である新規の細胞保存液や組織の保存液開発という点では厳しい状況である。これらをふまえて総合的には概ね順調に進行はしていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においてもヤママリンを用いた組織保存液の評価と改良を進めることによって,新規の組織保存液を開発することを目的として,次のことを実施する。細胞培養や器官培養用の細胞培地に添加するヤママリンの至適濃度の検討を引き続き行う。培養細胞あるいは歯胚組織を用いた組織保存液としての有用性については,スーパーヤママリンが効果的に細胞を休眠状態にする細胞の状況について探索すると同時に,このホルモンによる細胞反応性の違いの原因を調査する。また動物実験を用いた生体安全性の評価については昨年度実施できなかったアポトーシスについても検討を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞の増殖活性やアポトーシスについての実験は,実施が遅れたため試薬の購入を行っていない。細胞保存液としての十分な成果が出ておらず,予想と反することが多かったため,学会発表は見送った。そのため出張旅費は使用していない。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の継続に必要な細胞培養用の試薬,遺伝子発現等を調べる分子生物学的試薬,アポトーシスを検出する試薬等の購入に用いる。さらに今年度はこの研究成果を発表するために再生医療学会等に出張する予定であり,学会出張旅費を計上する。
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