現在、口腔癌の治療成績の向上のため様々な方面から研究がなされている。しかし、結局のところ、患者の全身状態が治療に耐えられるか、あるいは、原発巣の制御がなされた状態で、頸部リンパ節郭清術で転移が制御できるかどうかということが患者の生死を規定している。従って、今後急速に患者数が増大していく高齢者の口腔癌患者の治療成績の向上にはリンパ節転移に対する新たな低侵襲治療法の開発が望まれる。本研究の目的は、口腔癌転移リンパの治療への応用が可能な金ナノ粒子 (金ナノロッド;GNR)と近赤外線レーザー光を用いた表面プラズモン共鳴加熱を応用した低侵襲の光熱療法を開発することである。本研究には、我々が樹立したヒトと同等の大きさのリンパ節を持つリンパ節転移モデル動物、MXH10/Mo/lprマウスを用いた。転移モデルマウスの転移リンパ節にGNRを局所注射し、同転移リンパ節に近赤外レーザー光を照射したところ、抗腫瘍効果が確認できた。しかし、近赤外レーザー光の照射による皮膚の熱傷と腫瘍の残存という問題が明らかとなり、皮膚熱傷への対策と抗腫瘍効果の向上が臨床応用に向けての大きな課題であることが明らかとなった。レーザー照射による熱傷を予防する方策として、照射域の皮膚表面を冷却するための、冷却水を循環させる方式を用いた冷却装置を開発した。この冷却装置の表面冷却効果を利用することで、レーザー照射時の皮膚表面温度の制御が容易に行えることが明らかとなった。以上の成果により、皮膚熱傷を誘発することなく、より高い出力で、より長時間レーザー光を複数回照射することが可能となり、治療対象となる転移リンパ節の抗腫瘍効果を向上させることが可能となった。
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