研究実績の概要 |
癌治療における現在の重要課題は、癌の転移、抗癌剤耐性、放射線耐性などの制御である。実際の臨床でこれらの課題を解決・改善できれば飛躍的な治療成績の向上が見込まれる。しかし、未だに癌転移抑制薬は開発されていない。細胞接着機構のうち、CD82 は非常に重要であり、Wnt 経路を介してTarget Genes(Myc, Cyclin D1, TCF-1, PPAR-δ, MMP-7, Axin-2, CD44 等々)に作用し、細胞の接着、移動、浸潤に必要な様々な因子の産生を調整している。さらに、我々は先行研究でCD82 の発現制御をするAly-RRP1B-CD82 カスケードを独自に見出した。このカスケードの異常は、細胞外基質の産生にも影響を与えることが分かり、癌転移機構に重要な役割を果たしている。本研究では、細胞接着機構のうち独自に同定したAly-RRP1B-CD82-Wnt-target genes/ECMの経路に関し、本経路を制御することで癌転移機構を解明できるだけでなく、この経路上の遺伝子に対する抑制薬剤/増強薬剤を検索・同定できれば、転移抑制治療薬の新規開発へ重要な役割を果たすものと考えた。Aly-RRP1B-CD82-Wnt-target genes/ECM経路の制御に関し研究を行い、ALYの阻害薬であるchlorogenic acidを同定し、その効果をin vitroおよびin vivoにおいて、癌転移能の制御について解析を行った。その結果、口腔癌において、Aly-RRP1B-CD82 カスケードは癌転移機能に重要な役割を果たしていることを明らかにしただけでなく、chlorogenic acidは、ALYを阻害することで上記経路を制御し、口腔癌の転移機能を抑制することを示した。これらの結果は、転移抑制薬創薬への貴重なデータであり、さらに実験を進めれば口腔癌転移に対する抑制治療に対する有益なデータと考えられる。
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