研究課題
本研究の全体構想は,幹細胞培養上清の調製法と適用法を工夫することにより,区域欠損部に血管網構築を誘導し,骨再建など大規模組織再生を可能にすることを目指すものであり,その目的は血管系を誘導するのに最適な幹細胞培養上清を得るための培養条件と,生体内で実際に血管系を誘導するのに最適な上清の投与方法を求めることであった.本年度の研究は幹細胞培養上清の調製条件と成分分析を中心に推進した.いままでにわれわれが標準にしていた培養上清の調製法は培養細胞が70-80%コンフルエントになった時点で無血清培地に交換し24時間後に回収する方法であり,細胞成分は遠心分離にて除去していた.この方法では細胞が分泌する成分のみではなく細胞を構成している成分も残ることが明らかになり問題であった.これはフィルターでろ過することによって解決し,培養上清中の細胞が真に分泌した成分の詳細な分析が可能になった.ついで細胞種について検討した.骨髄間質細胞と脱落乳歯幹細胞の培養上清を質量分析機にて解析したところ,コラーゲン,デコリン,フィブロネクチンなどの細胞接着に寄与するタンパク質が多量に含まれていることが明らかになった.これらは数千種類におよび,骨髄間質細胞と脱落乳歯幹細胞の両者に共通するものが多かったが,異なるものも少なくなく,それらを特定した.また血管形成に関与するタンパク質についてはVEGFが含まれていたもののAngiopoietinはなかった.細胞増殖アッセイにより両者の培養上清に含まれている成分の細胞増殖能におよぼす影響を比較した.培養上清は両者とも細胞増殖能を高めたが両者間に差は認められなかった.現在までの研究結果から培養上清の調製方法はほぼ確立したと考えている.細胞種についてはさらにヒト由来不死化臍帯静脈血管内皮細胞を検討対象に加えることとする.また培養上清投与方法,濃度についても検討を進める.
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究は幹細胞培養上清の調製条件と成分分析を中心に推進した.いままでにわれわれが標準にしていた培養上清の調製法は培養細胞が70-80%コンフルエントになった時点で無血清培地に交換し24時間後に回収する方法であり,細胞成分は遠心分離にて除去していた.この方法では細胞が分泌する成分のみではなく細胞を構成している成分も残ることが明らかになり問題であった.これは0.22μmのフィルターでろ過することによって細胞構成成分を除去し解決することができ,ろ過処理が必須であることがわかった.これにより培養上清中の細胞が真に分泌した成分の詳細な分析が可能になった.ついで細胞種について検討した.培養上清調製に用いてきたのは骨髄間質細胞と脱落乳歯幹細胞であった.両者の培養上清を質量分析機にて解析したところ,コラーゲン,デコリン,フィブロネクチンなどの細胞接着に寄与するタンパク質が多量に含まれていることが明らかになった.いままでのELISAによる解析では特定の対象とした数種類のタンパク質が解析できるのみであったが,質量分析法によって網羅的に解析することができた.その中に含まれるタンパク質は数千種類におよび,骨髄間質細胞と脱落乳歯幹細胞の両者に共通するものが多かったが,異なるものも少なくなく,それらを特定した.また本研究の核となる血管形成に関与するタンパク質についてはVEGFが含まれていたもののAngiopoietinはなかった.細胞増殖アッセイにより両者の培養上清に含まれている成分の細胞増殖能におよぼす影響を比較した.培養上清は両者ともに細胞増殖能を高めたが両者間に差は認められなかった.
本研究の出口は「幹細胞培養上清を用いて血管網を構築し区域欠損部などでの大規模組織再生を可能にする」という臨床的な課題解決である.そのカギは①血管化に最適な幹細胞培養上清の抽出,②その適用法の工夫である.現在までの研究結果から培養上清の調製方法はほぼ確立したと考えられる.細胞種については上記の通り差がなかったため,さらに血管網を構築するために適していると考えられるヒト由来不死化臍帯静脈血管内皮細胞について検討することとする.本細胞を選択した理由は,血管内皮細胞が血管形成に必要な因子を放出していることが明らかにされているからである.また不死化細胞を使用することにより,いままでの培養上清を調製する際の問題点であった細胞の個体差,継代数による品質の不均一性を解決できるため,実験結果の再現性がより高くなるはずである.過去に血管内皮細胞の培養上清を骨再生研究に使用した報告はない.ヒト由来不死化臍帯静脈血管内皮細胞と骨髄間質細胞,脱落乳歯歯髄幹細胞の3者由来の培養上清の血管形成能について,酸素分圧などの培養条件を任意に設定して,血管形成関連遺伝子の発現解析や管腔形成アッセイにより検討する.それが明らかにされた段階でin vivoの実験にて骨欠損部の血管形成について組織学的およびエックス線学的解析にて評価する.また同時に骨組織の再生についても血管形成と関連させて評価する.つぎに培養上清の投与方法についても検討する.いままでは単回投与であったためその効果は継続的でないと考えられる.そのため徐放性担体やマイクロポンプなどを応用した継続的投与法,培養上清の濃度についても検討を進める.
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Journal of Oral and Maxillofacial Implants
巻: 30 ページ: in press