研究課題
本研究の全体構想は幹細胞培養上清の調製法と適用法を工夫することにより,区域欠損のような組織欠損部に血管網構築を誘導し,骨再建など大規模組織再生を可能にすることを目指すものであり,その目的は血管系を誘導するのに最適な幹細胞培養上清を得るための培養条件と,生体内で実際に血管系を誘導するのに最適な培養上清の投与方法を求めることであった.本年度の研究は培養条件の検討と適応となる組織欠損の探索を中心に推進した.培養環境を酸素濃度21%の標準に対して1%を低酸素条件として設定し,それぞれの環境下で歯髄幹細胞を培養した.培養細胞に発現するVEGF-A,ANG-2などの血管新生に関連する遺伝子,培養上清中のそれらのタンパク量,管腔形成能,細胞遊走能はいずれも標準よりも低酸素条件で有意に高かった.また培養上清を生体内の組織欠損部に適用することにより,複数の骨欠損モデルのみならず末梢神経の区域欠損モデルにおいても組織再生が促されることがわかった.その効果は骨においては標準よりも低酸素条件で有意に高かった.その過程は培養上清に含まれる血管形成に関係する因子が組織欠損部で作用し,血管網が構築されるところから始まることを示した.低酸素濃度の培養環境下におかれた細胞は酸素供給を欲し環境改善のために血管形成を促す因子を放出する.その因子を利用して組織を形成する細胞のライフラインである血管網を整備することは効率的な組織再生のための有効な方策であると考える.
2: おおむね順調に進展している
前年度は幹細胞培養上清の調製条件の検討と成分分析を中心に推進し,培養上清中の細胞分泌成分を精製する方法を絞り込み,その成分を骨髄間葉系幹細胞と歯髄幹細胞について質量分析法により詳細に調べることができた.本年度は培養条件の検討と適応となる組織欠損の探索を中心に推進した.培養環境を酸素濃度21%の標準に対して1%を低酸素条件として設定し,それぞれの環境下で培養した歯髄幹細胞の血管新生に関連する遺伝子発現およびその培養上清中のタンパク量,培養上清による管腔形成および細胞遊走能について調べた結果,いずれも標準よりも低酸素条件で有意に高いことがわかった.また培養上清を生体内の組織欠損部に適用することにより,複数の骨欠損モデルのみならず末梢神経の区域欠損モデルにおいても組織再生が促されること,その効果は骨においては標準よりも低酸素条件で有意に高かったこと,その過程は培養上清に含まれる血管形成に関係する因子が組織欠損部で作用し,血管網が構築されるところから始まることなどを示せた.本研究の全体構想は幹細胞培養上清の調製法と適用法を工夫することにより,区域欠損のような組織欠損部に血管網構築を誘導し,骨再建など大規模組織再生を可能にすることを目指すものであり,その構想を具現化するための目論見のとおりに概ね研究が遂行できている.
本研究の基本戦略と当初に定めた進め方に沿って研究が遂行できており,その出口は幹細胞培養上清を用いて血管網を構築し区域欠損部などでの大規模組織再生を可能にするという臨床的な課題解決としている.そのカギは①血管化に最適な幹細胞培養上清の抽出,②その適用法の工夫であると考えている.血管化を目的にした培養上清調製法はすでに目途が立ったのでそれと同様の手法を用いて再生させる対象である組織形成を目的にしたものを求める.その手がかりをすでに細胞伸展培養でつかんでおり,これを発展させるとともにその他の方法も模索する.このようにして得た組織形成のための培養上清を複数のモデルで血管網構築が得られた組織欠損部に投与する.血管網の範囲と密度,培養上清の内容と投与頻度を変数とし,組織形成の得られる範囲と要する期間,欠損部に動員される細胞の動態を求めるものとして検討する.この結果から至適な条件に絞った上で,カテーテル留置・マイクロポンプ化を試行したい.そして大規模組織再生までの方策として,まずは欠損部に血管内皮前駆細胞を動員して血管網構築による血管化を図った後に,最終目的の組織形成性細胞を動員する段階的細胞動員法を企図している.
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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