研究課題
我々は、これまで再生が困難とされていた、顎・顔面領域の運動及び知覚を司る三叉神経に対し、新しく開発した合成高分子とコラーゲン複合材料(P.G.A.ーコラーゲンチューブ:人工神経管)によりin situ Tissue Engineeringの手法を用い、大型動物(イヌ)を使用した動物実験で良好な神経再生を証明してきた。これまで顎・顔面領域で下顎智歯抜歯時や歯科用インプラント埋入時、また腫瘍切除時等の際、当該三叉神経損傷が原因になり発症していた神経因性疼痛(特に難治性疼痛:C.R.P.S.)や運動障害に対し、我々の開発した人工神経管:P.G.A.ーコラーゲンチューブ、を用いることで良好な臨床成果が得られることがわかった。これらの実績に基づき、コラーゲン複合体である人工神経管に自己骨髄由来単核球(B.M.C.)を検体より採取後、直ぐに含浸、内包させ、これを神経損傷部と置換し、より早く、緻密な運動及び知覚神経さらには混合性神経再生を生来させ、早期の神経損傷治癒に用いることを試み、ひいてはできるだけ早期に一般臨床に用いることを目的として本実験を行ってきた。現在、自己の骨髄由来単核球(B.M.C.)を採取、培養増殖し、それを神経損傷部位に散布する手法により、一定の成果が上がることが報告されている。無論自己の細胞を培養増殖して用いるので安全ではあるが手技の難易と期間的な問題もある。我々は自己の骨髄由来単核球(B.M.C.)を採取し直ぐにコラーゲン複合体である人工神経管にそれを含浸してより簡易で安全に用いている。またこの手法は我々の考えるin situ Tissue Engineeringの手法に合致している。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の実施要領は、1-1.ビーグル犬下顎大臼歯部頬側骨に骨扉を形成し下歯槽神経(下顎神経:三叉神経)を露出。1-2.ビーグル犬の下顎大臼歯舌側口腔底部を切開し舌下神経を露出させる。1-3.それぞれ30㎜切除し当該ビーグル犬より採取した骨髄由来単核球(B.M.C.)を含浸させた人工神経管(P.G.A.ーコラーゲンチューブ)で切除部を置換、連結する。2-1. 骨髄由来単核球(B.M.C.)の分離培養、増殖を行う。2-2. 骨髄由来単核球(B.M.C.)の特定をP.C.R.法を用いて行う。2-3.また骨髄由来単核球(B.M.C.)の適正な移植量を本実験により精査する。2-4. 骨髄由来単核球(B.M.C.)と骨髄由来幹細胞応用実験との神経再生ベンチマークの比較。3-1.混合性神経(知覚及び運動を司る神経)再生実験をビーグル犬の顔面神経を用いて行う。3-2.それぞれの実験の再生の評価を3ヶ月後(5頭)、6ヶ月後(五頭)、9ヶ月後(5頭)、12ヶ月後(5頭)の4群に分け電気生理学的及び、病理組織学的に行う。本来、難治性神経因性疼痛(C.R.P.S.)を我々の手法で治癒させてもイヌではその評価基準がまだ確立されていない。よってイヌにおいて、運動の評価は、動画解析、サーモグラフ解析などを用いて行い、病理組織像や神経電気生理学的な手法により神経再生評価と組み合わせて難治性神経因性疼痛(C.R.P.S.)の治癒状況を考慮する。現在、これらの実験は随時実施され、実験計画の約3/4 が終了している。
前年度(平成26年度)に行われた実験に基づき、残り約1/4の実験を終了する。特に骨髄由来単核球(B.M.C.)と骨髄由来幹細胞応用実験とのベンチマークの比較について明らかな優劣がわかればさらに優位の細胞について、難易度の高い混合性の顔面神経再生実験を行うことを予定している。これらとともに、顔面神経再生後の長期予後について、電気生理学的、病理組織学的検証、及び運動機能、生理学的機能の評価と検証を行う。これはそれぞれの実験に於ける神経再生の確認の後、特に再生した混合性神経である舌下神経の支配領域の知覚及び運動機能の回復を神経生理学的に評価する。また骨髄由来単核球(B.M.C.)応用実験の臨床効果の確認と安全性の評価が確定でき、骨髄由来単核球(B.M.C.)と骨髄由来幹細胞応用実験との神経再生のベンチマークの比較において優位となれば、早期の臨床応用を検討する。難治性神経因性疼痛(C.R.P.S.)を我々の手法で治癒させてもイヌではその評価基準がまだ確立されていない。よってイヌにおいて、運動の評価は、動画解析、サーモグラフ解析などを用いて行い、病理組織像や神経電気生理学的な手法により神経再生評価と組み合わせて難治性神経因性疼痛(C.R.P.S.)の治癒状況を考慮する。顔面神経については、様々な顔面表情筋を支配する神経枝に対して、本実験同様の再生実験を行う。これは大変細い神経枝を扱うので微細な人工神経管(P.G.A.ーコラーゲンチューブ)を作製する。(もしくは新たな素材の検討も必要となる可能性も有る)舌下神経についても再生実験の成功例が得られれば同様に早期の臨床応用を考える。
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