研究課題
今年度は、IgG4関連涙腺・唾液腺炎(IgG4-DS)患者と対照疾患であるシェーグレン症候群(SS)患者の臨床データと唾液採取を行うとともに、唾液腺を用いてDNAマイクロアレイを行い、診断メーカーとして有用な分子の網羅的解析を行った。その結果、IgG4-DSとSSの臨床所見を比較すると、IgG4-DSの好発年齢は50~60歳代でSSよりやや高齢で、圧倒的に女性が多いSSと比べIgG4-DSは男性がやや多く、性差に明らかな相違がある。IgG4-DSの口腔乾燥感と唾液分泌量の減少は、SSと比べて軽度であり、口唇腺におけるリンパ球浸潤程度は重度であった。病理所見を比較すると、IgG4-DSは周知の通りIgG4陽性形質細胞の浸潤を特徴とするが、リンパ球の浸潤様式はSSのような導管周囲性ではなく、導管自体の破壊もSSと比べて軽度であり、胚中心の発現頻度はSSより有意に高かった。このように、IgG4-DSはIgG4陽性形質細胞の浸潤以外にも特徴的な病理像を呈していた。一方、IgG4-DS患者3例と健常者3例の唾液腺を用いてDNAマイクロアレイを行った結果、両群間で明らかに遺伝子発現は異なり、IgG4-DSで発現増加した遺伝子が450個、減少した遺伝子が732個であった。機能解析では、TおよびB細胞活性化、ケモタキシスなどの免疫反応に関する遺伝子群の発現増加が認められた。PCRによるvalidationでは、IgG4-RDは他群と比べ、コラーゲン様構造マクロファージ受容体(MARCO)のmRNA発現が有意に亢進していた。MARCOはスカベンジャー受容体の1つであり、M2マクロファージに発現するが、IgG4-DSの唾液腺のみM2マクロファージの著明な浸潤を認めた。以上より、MARCOがIgG4-DSの疾患関連遺伝子の1つであることが考えられた。
2: おおむね順調に進展している
検体数も予定通り収集できており、DNAマイクロアレイもIgG4-DSの疾患関連遺伝子を同定することが可能であり、今後の診断への応用が期待できる。
1)高感度で再現性のある解析方法の検討本研究では、B 細胞の活性化に関わるサイトカイン(IL-4、IL-10、IL-21)に注目し、さらにIgG4-RDの鑑別診断としてシェーグレン症候群(SS)が挙げられるため、過去の我々の研究でSS の病態に関与することが示唆されたTh 細胞由来のサイトカイン(TNF、IFN-γ、IL-2、IL-6、IL-8、IL-12、IL-17)についても検討を行う予定である。具体的にはこれらの分子を標識した異なる蛍光強度を有するビーズを用いて、同時にフローサイトメトリー(FACS VerseTM)による解析を行う予定である。また病態の把握のためにステロイド治療前後に唾液を測定することにより、病態に関与する分子の検索をさらに発展させる。2)診断に有用な唾液成分の同定我々は過去の研究でCBA system を用いて、SS と健常者の唾液中サイトカイン・ケモカイン濃度を検索し、SS ではIL-1β、IL-8、IL-4、IL-6、IL-10、MDC など様々なサイトカイン・ケモカイン濃度が有意に高値であり、さらに、SS 患者を口唇腺内のリンパ球の浸潤程度で軽度・重度の2群に分けて検索したところ、重度の症例でTh2 タイプの分子(IL-4、IL-10、MDC)のみが有意に高いことを見い出した(Clin Exp Immunol. 169(1):17-26, 2012)。以上のように、唾液中のサイトカイン・ケモカイン濃度の検索は、SS の診断だけではなく、病態の把握が可能であることも示唆された。本研究では、IgG4-RD 患者も加えて同様の検討を行い、さらにIgG4-RD のステロイド治療前後にも測定することによって、診断や病態の把握(治療効果の評価)に有用なものを選択する。
唾液中のサイトカイン濃度の測定を次年度に行うことになったため、そのための試薬(CBA flex system)を次年度に繰り越しになったため
唾液採取が目標数に達し次第、試薬(CBA flex system)を購入し検索を行う。
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