研究課題
皮膚や粘膜の治癒には、上皮が創部を被覆する「再上皮化」および上皮が極性を失い、周囲の細胞との細胞間接着様式を変化させ遊走や浸潤する能力を得る「上皮間葉転換」が重要な鍵を握る。前年度までの研究で、TRPV3 (transient receptor potential channel vanilloid 3) が口腔上皮細胞において他の温度感受性TRPチャネルよりも多く発現し、温度刺激により細胞内へのカルシウム濃度上昇が起こることを示した。さらに、TRPV3遺伝子欠損マウスでは野生型に比べ、抜歯創の上皮の被覆が遅れることを発見した。そこで、今年度は、口腔粘膜の創傷治癒モデルにおいて、上皮化あるいは上皮間葉転換がどのように起こるのかを明らかにする事を目的として、口蓋粘膜に円形の傷を付け経時的に観察を行い、治癒の状態の変化を明らかにした。また、TRPV3の関与を明らかにするために、野生型マウスおよびTRPV3遺伝子欠失マウスとを比較した。口蓋の円形パンチモデルにおいても、TRPV3遺伝子欠損マウスでは野生型に比べ、治癒が遅延しており、抜歯モデルにおける結果と一致していた。口蓋モデルの方が抜歯モデルに比べ、創の上皮形態のばらつきが少ないことから、粘膜治癒のモデルとして評価がしやすいこともわかった。組織学的な観察では、口蓋モデルと抜歯モデルでは、上皮の伸展移動形態が異なっていた。教科書的な分類では、歯肉は被覆粘膜、口蓋は咀嚼粘膜とされることから、粘膜の特徴による差や創による欠損の大きさによるのかもしれない。次に、免疫組織学的にN-Cadherin, Vimentinの発現増加,β-Cateninの核移行, E-Cadherinなど上皮間葉転換のマーカー群の発現変化を調べた。治癒過程組織の上皮がそれらの分子マーカーの発現を多様に変化させていることがわかった。
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