研究実績の概要 |
本研究では、口腔扁平上皮癌において、解糖系阻害剤である2-DG(2-デオキシ-D-グルコース)の放射線増感剤としての有用性について検討を行った。2-DGと放射線の細胞傷害活性上乗せ効果のメカニズムについて、細胞増殖に関わるタンパク質の翻訳合成経路と、放射線照射によるDNA損傷に対するDNA修復の2つの観点より検討を行った。DNA修復タンパク質であるPARP,DNA-PKcs,Ku70,Rad51の発現を解析したところ、2-DGと放射線併用後、早期においてPARP,DNA-PKcsの発現低下が認められた。このことから、2-DGは放射線照射により引き起こされたDNA損傷に対する修復を阻害することによって、致死的な損傷に移行し、細胞死の誘導ひいては細胞増殖抑制に寄与する可能性が示唆された。SAS細胞株において、タンパク質翻訳開始因子であるeIF4Eと、リン酸化型eIF4Eの発現解析を行ったところ、2-DGと放射線併用群では、eIF4Eのリン酸化の抑制が認められた。2-DGによる解糖系阻害により、ATP産生の低下が起こり、それを感知したAMPKが活性化され、mTORの抑制が起こるとの報告がある。本研究において、mTORの下流に存在する翻訳開始因子であるeIF4Eのリン酸化抑制が認められたことから、タンパク質への翻訳が阻害され、細胞増殖が抑制される可能性が示唆された。さらに、SAS細胞株をマウスに移植し、xenograft腫瘍モデルを作製し、2-DGと放射線併用による抗腫瘍効果の検証を行った。その結果、2-DGと放射線併用群では対照群と比較して有意に腫瘍抑制効果を示した。2-DGはタンパク質合成経路の阻害や放射線照射後のDNA修復阻害を引き起こすことにより、放射線増感効果を高め、抗腫瘍効果を発揮するものと推察された。
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