口腔癌の予後の決定因子である浸潤・転移の分子機構の解明とそれに基づいた新規治療法の開発は重要な研究課題である。 sphingomyelin (SM)の細胞膜脂質ラフト修飾を介したCXCR4再分配と移動能制御への関与に関しての情報から、Sphingolipidが機能分子の細胞膜での再配分,シグナル伝達集積,細胞骨格再構成を介して,口腔原発扁平上皮癌の浸潤能亢進に寄与するのではないかとの仮説に至り、解析を行った。口腔原発扁平上皮癌の予後と深く関与する浸潤様式(YK分類)と,活性型スフィンゴ脂質として注目されているsphingosin-1-phosphate(S1P)の産生に関わる sphingosin kinase 1(SK1)に関し,発現を免疫染色で解析した。SK1は腫瘍先進部腫瘍細胞細胞膜とその近傍の反応性間質細胞での発現の局在を認めた。浸潤様式別では,YK-4C,4D型で高発現を認め、E-cadhelin喪失と vimentin発現が誘導されるなど,SK1の扁平上皮癌細胞のepithelial mesenchymal transition (EMT)への関与が示唆された。さらに,YK-3型と4C型では浸潤部反応性間質細胞にも SK1の発現を認め扁平上皮癌浸潤先進部における癌細胞・宿主細胞関連への関与も示唆された。興味深いことにYK-4D型では間質細胞の SK1発現亢進は認めず,YK-4D型癌細胞は癌細胞・宿主細胞関連から独立した浸潤能を獲得している可能性が示唆された。
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