研究課題/領域番号 |
26670887
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
春山 直人 九州大学, 大学病院, 講師 (70359529)
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研究分担者 |
寺尾 文恵 九州大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (10510018)
安永 敦 九州大学, 歯学研究科(研究院), 研究員 (80515990)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 歯学 / オートファジー / 歯根膜 / 歯の移動 / メカニカルストレス / 細胞死 |
研究実績の概要 |
矯正学的な歯の移動において、歯根膜線維芽細胞には、メカニカルストレスが負荷されるのみならず、血流変化による低酸素や栄養不足に曝されることから、細胞の生存・恒常性維持のメカニズムがダイナミックに変化すると考えられる。 本研究課題では、歯根膜線維芽細胞において、細胞が飢餓に陥ったときや、虚血などの病的状態によって誘導される恒常性維持機構としてのオートファジーについて着目する。とくに歯根膜繊維芽細胞内のロジスティクス(物流システム)の変化について、ストレス下での細胞内物流の分子応答機構と恒常性維持・細胞死との関連に着目し、歯根膜線維芽細胞を用いたin vitro の オートファジー誘導実験、歯根膜特異的オートファジー欠損マウスを用いたin vivo 実験の両面から多角的にそのメカニズムを解明することを目指す。 本年度は、実験計画にそって、まず歯根膜線維芽細胞を用いたin vitro でのオートファジーの実験系を確立し、その後、次年度に予定していた種々の刺激に暴露した際の歯根膜線線維芽細胞のオートファジーの動態解析を先取りしておこなった。その結果、歯根膜線維芽細胞にはオートファジー関連因子がタンパクレベルで発現していることが確認できた。また、低酸素培養下の歯根膜線維芽細胞においてオートファゴソーム形成が有意に上昇することがわかった。また、歯根膜細胞に圧縮力を付加する実験系を確立し、細胞内物質輸送変化、恒常性維持反応変化について解析を行った。また、生体におけるオートファジーの役割を解析するためにPostn-Cre 遺伝子改変マウスを作成する予定であるが、その前段階としてPostnのプロモーター配列を得るためのクローニングを実行し、得られた配列についてその遺伝学的情報を解析するとともに、機能解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、1)歯根膜細胞を用いたin vitro オートファジー実験系の樹立、2)ペリオスチンCre トランスジェニックマウス(Postn-Cre TG)作成を行う予定であった。 1)歯根膜細胞を用いたin vitro オートファジー実験系の樹立に関しては、予定通りオートファジー関連遺伝子であるLC3等が遺伝子レベル並びに蛋白レベルで発現していることを確認できた。また、歯根膜培養細胞に誘導される細胞内小胞形成がオートファゴソームであることを、LC3の免疫染色後、蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡を用いて形態学的な観察を行い確認した。 さらに、オートファゴソーム分解の阻害剤である、CQ(chloroquine)で処理した際に誘導される小胞形成をモニタリングすることにより細胞内オートファジーが歯根膜培養細胞においても機能していることを確認し、特に低酸素刺激を加える事でオートファジーが誘導されることを、LC3の免疫染色で確認した。細胞の解析に関しては、次年度に予定していた種々の刺激に暴露した際の歯根膜細胞のオートファジーの動態の解析、とくに低酸素、持続的圧縮力負荷時の細胞反応の検討を、今年度先取りして始めている。 2)ペリオスチンCre トランスジェニックマウス(Postn-Cre TG)作成に関しては、プロモーター配列を得た後に個体化するまでを計画していたが、現在は配列を得てその機能解析を行うところでとどまっている。 よって、実験内容により計画より進んでいる部分と遅れている部分があるものの、全体としては概ね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前述のとおり、実験の実施計画において前後している部分があるが、全体としては申請書に記載した研究目的を達成できると考えられる。 今後は、まず今年度未完了であるPostnプロモーター配列の機能解析を、培養細胞を用いておこなう。得られたプロモーター配列下流にGFP のcDNA を結合させ、歯根膜培養細胞にて、GFP の発現を確認した後、九州大学動物実験施設にて、受精卵にマイクロインジェクションし固体化する。得られたトランスジェニックファウンダーマウスをROSA26 レポーターマウスと交配しラインを確立する。 また、RIKENより購入したAtg5flox/flox マウスと交配し、歯周組織特異的にオートファジーを欠損したマウスを作成する。作成には6-9 ヶ月を要すると考える。同時にRIKEN よりGFP-LC3 マウスも購入し、歯の移動を超弾性コイルによって行い、歯周組織におけるオートファゴソームの形成を確認するとともに、低酸素プローブを腹腔内注射することで、歯周組織に低酸素部位が形成されていることを組織切片上で免疫染色にて確認する。 また、今年度に引き続き種々の刺激に暴露した際の歯根膜細胞のオートファジーの動態の解析もおこなう。とくに1)栄養飢餓または過多状態、2) インスリンやエストロゲンなどホルモン存在、非存在下、3)低酸素チャンバーまたは持続的圧縮力負荷下での細胞培養を行い、細胞増殖能、細胞老化、栄養代謝能、石灰化能についてその影響を検討する。 本課題でPostn-CreTg マウスが作成できれば、今後の歯科関連領域においてパワフルな研究ツールとなることが期待されるとともに、オートファジーと歯周組織の加齢変化の関連をしめすことができれば、歯周組織の老化防止によって、来たるべき超高齢化社会におけるQOL の維持向上に寄与する成果を挙げられるものと期待できる。
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