二酸化チタンに代表される光触媒半導体材料に紫外線を照射すると光励起状態を誘導し活性酸素を生じ、その強力な酸化作用で表面に存在する有機質を酸化分解蒸散することが可能である。紫外線を照射するだけで防汚効果をもたらすとして、工業界においてセルフクリーニング塗料等に実用化されている。しかしながら顕著な酸化作用故、時としてチョーキングと呼ばれる塗膜の劣化を引き起こすことがある。すなわち光触媒効果のために含有された酸化チタンが塗料表面の汚れだけでなく、塗料成分そのものを分解してしまい酸化チタンの粉末だけがチョーク状に残留する現象であるが、このチョーキングを逆手にとり、二酸化チタンを顔料として含むレジン材料に適用すると、紫外線照射のみでレジンの分解・崩壊が起こるのではないかというのが本研究の着想点である。実験では、接着性レジンセメントを用いて、二酸化チタンでコーティングされたシリカと牛歯エナメル質を接着し、24時間後にセメントラインとして露出する接着面断端から紫外線を20分間照射し、引っ張り接着試験を行った。その結果、紫外線照射しなかった試料の接着強さが13 MPaであったのに対して、紫外線照射した試料では6 MPaと低い値であった。これらの結果を前年度までの研究結果と総合して考えると、上記仮説に基づいたディボンディングシステムの実現性が示唆された。しかし、紫外線の照射時間を短くしようとすれば、より高い出力の紫外線が必要となるため、今後さらなる研究が必要である。
|