事業初年度に抗真菌剤との相乗効果を有する食品成分として「茶カテキン」の検討を行ったが、Candida albicansに対する作用は弱く、抗真菌剤との相乗効果は認められなかった。抗真菌作用を持つ食品成分として多価不飽和脂肪酸について検討を行い、フルコナゾールに対しては阻害的に作用するが、アムホテリシンBとは相乗効果を示すことが明らかとなった。とくにステアリドン酸に顕著な相乗作用が見られた。飽和脂肪酸のステアリン酸、あるいは一価不飽和脂肪酸のオレイン酸には相乗効果は見られないことから、多価不飽和脂肪酸、特にステアリドン酸の構造特異的抗真菌作用が示唆された。事業2年目は、ステアリドン酸の作用解明のため、主にケミカルゲノミクス(CG)解析を実施した。CG解析では、特定のタンパク質が薬剤標的となっている場合、そのタンパク質をコードする欠損株の合成致死欠損株の情報を元に標的を高精度に特定可能である。ところが、脂肪酸の(統計学的に有意な)標的は同定されなかった。これは、標的が単独欠損で致死となる必須タンパク質であるか、タンパク質以外の細胞構成成分が標的となっている可能性を示唆している。脂肪酸は疎水的性質を持つ細胞膜構成成分であり、特定のタンパク質のみに結合するのではなく、広範囲の細胞膜中に挿入拡散されると考えられる。その結果、膜の性質(流動性等)変化が生じ、近傍の膜タンパク質が影響を受けることで真菌の増殖抑制や薬剤との相乗効果が発揮されると考えられる。膜障害を起こすアムホテリシンBの効果が増強されるのは合理的である。一方で、細胞内に取り込まれエルゴステロール合成を阻害するフルコナゾールについては、脂肪酸によって薬剤取り込み抑制が起きることで、阻害的に作用する可能性が示唆された。
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