本研究では、看護技術における「熟練の技能」などの「暗黙知」を伝承するために、看護師と患者の同期現象に着目し、心が通い合う看護の場を創発することを目的とし,その成果を通して、看護技術の「暗黙知」の修得を支援できる教育システムの開発について検討を行った。 まず看護師と患者の生体リズムに同期現象が存在すると仮定し、五感を刺激する何らかの作用により両者の同期現象を意図的に発現させることで、看護技術実施プロセスにおけるリラックス状態、つまり暗黙知を効果的に伝承できる相互信頼の場を創発しようと試みた。生体リズムの中でも、特に脳波中のα波含有率推移における同期現象に注目した。2人の脳波間に同期現象が生じている状態は、対人医療行為などを含むあらゆる共同作業をより効率的に行える、いわゆる「息のあった」状態と定義できると考えられる。そこで、本来は対面コミュニケーションなどにおいて自然発生する生体リズムの同期現象を、心拍や呼吸などの生体リズムを模した振動刺激を被験者ペアに同時に付与することにより、人為的に誘発することとした。具体的には、振動の強さを変化させることにより、ヒトの心拍リズムや呼吸リズムを模した振動刺激を二人一組のペアに与え、被験者の脳波を周波数ごとのパワースペクトルに分解し、平静時と刺激付与中のα波含有率の変化や、同じ刺激をペアの被験者に付与した際に両者のα波含有率の推移に同調が発生しているかを、相関係数を用いて評価した。 その結果、個々人におけるα波含有率の上昇については心拍リズム型に、同期現象の誘発性については呼吸リズム型において一定の効果と傾向が確認された。さらにこれらの検討を利用した具体的な教育システムの開発について検討を進める予定であり、今後の課題としたい。
|