終末期医療に対する本人の意思を顕在化させ関係者に示す方法として米国ではバリューズヒストリーが用いられている。バリューズヒストリーは終末期医療の意思決定の根拠となる価値観歴である。わが国でもバリューズヒストリーの使用は有効であるという意見があるが、自己決定が最も尊重される米国と人との調和を重んじるわが国では考え方は異なる。そこでわが国の文化に即した日本版バリューズヒストリーの開発を目的として本研究を実施した。 平成27年度に訪問看護認定看護師および在宅看護専門看護師418人を対象としてデルファイ法による日本版バリューズヒストリーに関する調査を行った。その結果「健康上の問題と向き合う姿勢」「健康上の問題に対する医師からの説明内容」など35項目が日本版バリューズヒストリーの構成項目として選択された。日本版バリューズヒストリーは、病名や病気の見通しなどについて本人に事実を伝えるとは限らないわが国の状況や、周囲の人の状況や調和を優先するといった日本人の意思決定の特徴が反映されていると推察された。 一方わが国では家族が終末期医療の意思決定をしている場合が多いことが報告されている。そこで平成28年度は看取りを経験された家族を対象にバリューズヒストリーの構成項目について調査を実施し、36人から回答を得た。回答者の80%以上が必須であると回答した項目は「最近の本人の健康状態」「健康上の問題と向き合う姿勢」など23項目だった。この内「受診状況」「医療処置の決定を主治医にゆだねることの希望」「趣味、テレビ鑑賞など本人が好きな活動」「自分を笑わせる事」は訪問看護認定看護師、在宅看護専門看護師を対象とした調査で「必須である」と回答したものが80%未満であったため、選択されなかった。これらの項目は平成27年度に開発した日本版バリューズヒストリーに追加する必要があると考えられた。
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