口述発表した質的探索的研究の成果を基に当事者支援を検討した論文が受理され、母性衛生第58巻1号に掲載された。また、量的記述研究については質問紙調査を終了しデータ解析を進めた。 質的探索的研究では、女性パートナーと結婚経験があり子どもを持つMTF当事が、結婚後パートナーにカミングアウトするまでに経験した性別移行の過程を考察し、当事者が自身の性を探り性別移行を決心していく過程を支える援助について示唆を得た。身体の性に対する違和感を封じ込めて男性として女性パートナーと結婚し、夫婦として生活する当事者の性別違和感の封印を解き、自身の性を見つけていく過程を支える援助、移行する性別を見極める心理的作業や女性として生きる決意を支える援助、女性への身体的社会的性別移行を支える援助、カミングアウトの準備と実行を支える援助について検討し、支援体制の整備の必要性を明らかにした。その中で、リプロダクティブヘルス・ケアに携わる専門職は、当事者が女性としての人生を現実的、主体的に選択できるよう多分野の対人支援専門職や性同一性障害当事者およびその家族と連携する必要があることを確認した。 量的記述研究では61名のMTF当事者から得た結果の解析を進めた。調査項目は基本属性、治療、戸籍上の性別と名前の変更状況、職業と雇用上の性別、望む性での生活経験の有無、望む性の具体的な表現状況、カミングアウトの状況、望む性での対人関係、就労、生活支援を受けた経験であった。当事者の平均年齢は45歳で、98%が望む性への身体的性別移行に向けて何らかの治療を受けており、87%が望む性での生活を経験していた。女性としての外見やふるまいを実践している人は多いが望む性での就労は半数以上が難しいと答え、対人関係や就労への悩みや迷い、不安について回答していた。また、望む性で生きるための生活支援を受けたいと回答したのは80%であった。
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