研究課題/領域番号 |
26700006
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内山 彰 大阪大学, 情報科学研究科, 助教 (70555234)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | モバイルセンシング / 参加型センシング / 都市交通 |
研究実績の概要 |
都市生活において人々の快適な移動を実現するためには,電車や地下鉄のような公共交通機関での移動をよりスムーズで快適にすることが重要である.本研究ではユーザ参加型のコンテキストセンシングを適用することで,より快適な都市交通の実現を目指している.平成28年度はこれまでの電車や駅構内におけるコンテキスト推定法の設計で得た知見に基づき,多様なセンサデータを活用した都市広域またはスポットレベルのコンテキスト推定法の設計に取り組んだ.具体的には,携帯電話の基地局通信履歴に基づく電車旅客数の推定,スマートフォン画像からの群衆混雑状況推定,車載カメラを活用した歩道の人流推定法の設計を行った.電車旅客数の推定では,通信時に基地局側で記録される端末IDのみを用いて,時刻表や路線図などの地理的情報と組み合わせることによって,電車旅客を推定するとともに各旅客が乗車している電車を推定する方式を考案した.スマートフォン画像からの群衆混雑状況推定では,撮影場所の事前知識を必要としないモバイル環境に適した群衆面積モデルに基づく方式を設計した.さらに,車載カメラを活用した歩道の人流推定では,深層学習により画像から方向別に歩行者を検出し,時空間的な特徴量に基づく補正を行うことで,スポットレベルでの人流推定を実現するための基礎技術を開発した.これらの成果は国際会議や論文誌での発表を行うなど,積極的な成果創出を行っている. さらに,これまでに取り組んできた駅構内におけるスマートフォンセンサを用いたユーザ参加型コンテキスト推定法について,様々な環境における性能を明らかにし,その研究成果をモバイル系難関国際会議ACM MobiSys 2016で発表するなど,国際的にも顕著な成果が挙げられている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では以下の3つの環境を対象にそれぞれユーザ参加型センシングによるコンテキスト推定法の設計を進めることとしていた.一つ目は(1)電車乗車中のように移動が大幅に制限された環境であり,2つ目は(2)駅プラットフォームのように人の列が形成される場所が事前に分かっており,電車の発着スケジュールや混雑状況に従って制限される移動領域が動的に変化する環境である.そして,3つ目は(3)地下街やショッピングモールなど,移動領域の制限がほとんど無い環境を対象とした場合である.これまでの研究で(1), (2)については電車内の混雑状況および乗車位置をスマートフォンに搭載されたBluetooth信号により推定する方式や,加速度,ジャイロ,地磁気センサなどのスマートフォン内蔵センサを組み合わせた駅構内の設備設置位置推定法を考案するなど,それぞれの環境における学術的な研究課題は概ね順調に解決してきている.さらに,平成28年度は(3)について重点的に取り組み,移動領域の制限がほとんど無い都市部における歩道や広場,都市全体などの様々なスケールを対象として,混雑状況や電車の乗車状況などの(1), (2)よりも広範囲を対象としたコンテキスト推定法の設計を行った.いくつかの学術的な技術課題解決や実証実験を行う必要はあるものの,計画していた(1)~(3)の環境における学術的な研究課題は概ね順調に解決できており,予定通りの成果が期待できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成29年度は,以下のような課題に取り組む予定である. ・各環境における新たなコンテキスト推定法の検討:これまでに考案してきた都市交通におけるコンテキストセンシング方式では,未だ十分に把握することができていないコンテキストも存在する.例えば,駅プラットフォームにおける乗車位置ごとの乗車待ち列の長さやプラットフォームの場所ごとの混雑状況は,その流動性の高さから特に推定が困難であるが,鉄道利用者にとっては非常に有用度の高いコンテキストである.また,混雑状況から示唆される快適性やイベントの有無,通行のしやすさ等の様々なコンテキストもユーザにとって有用性が高い.このような都市交通利用シーンの中でも主要な場面を対象として,ユーザ参加型センシングによるコンテキスト推定の網羅率向上を目指す. ・省電力化とコンテキスト推定精度のトレードオフの検討:これまでに様々な対象環境におけるコンテキスト推定法を考案しているが,いずれの場合も使用するセンサの種類やセンシングの頻度など,コンテキスト推定の精度と消費電力にはトレードオフの関係がある.スマートフォンなどのモバイルセンサを用いてユーザ参加型でのセンシングを行うためには,一定割合のユーザ参加率が必要となるが,バッテリの消費が激しいとユーザの協力が得られない可能性が高い.このため,省電力化とコンテキスト推定精度のトレードオフを検討することは学術的にも大きな課題である. 上記の課題に取り組み新たな知見を創出するとともに,引き続き国内研究会や国際会議,国際論文誌等での積極的な成果発信に務める.
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