本研究の目的は、主に視覚情報が脳内で意識的に認識される仕組みを、前行性信号(低次野から高次野へと伝達される神経信号)に注目しながら解明することである。前年度までに引き続き、①心理学的アプローチ・②脳活動計測アプローチ・③脳刺激アプローチの3つを同時並行で行った。 その結果、まず①では、被験者に特殊な運動系課題を行わせることで、意識知覚の時間的側面(刺激の主観的な長さなど)を誤認させる新しい心理現象(錯覚)を発見した(英文国際誌に原著論文を発表済み)。この錯覚は視覚入力(刺激提示法)に依存して発生するため、メカニズムの一部は視覚の前行性信号に関わる可能性が高い。つまり前向性信号が意識表象に与える影響を解析する新たなツールになり得ることから、今年度も引き続き研究を進める。次に②では、前年度(平成27年度)に開発した実験パラダイム(無意識知覚中の逆行性神経信号を観察するためのパラダイム)を、実際の脳波・脳磁図計測に応用した。既に最初の実験は終了しており、現在データを解析している。最後に③に関しては、経頭蓋電気刺激(脳内に直流性または交流性の電気刺激を与える手法)が、視覚刺激の意識知覚に与える影響を調べた。既に主実験は完了しており、特定の脳部位に特定のタイミングで電気刺激を与えると、刺激の認識能力が有意に変動することを発見した。ただし電気刺激が作用したのが前行性信号であることを立証するには、更に数個の補足実験(コントロール実験)が必要となる。それらを終了させたのち、国際誌への論文投稿を予定している。
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