観察体位の効果について実験を実施した。具値的には、着座、仰向け、立つという3つの姿勢に対して、正面を向いて刺激を観察する条件と、首を90度回転させ、真上を向いて観察する条件を設定した。この姿勢を保つための工夫として、配線が全く無い、ダンボール製のヘッドマウントディスプレイ(HMD)と、アンドロイド携帯端末による刺激提示を行った。この新しいシステムについては、2016年中に、日本バーチャルリアリティ学会論文誌の形で成果を報告できた。 この新しいシステムを用いて、3姿勢、2観察方法の6条件でベクション強度を測定した。各条件で40秒間の刺激提示を行い、それを4回ずつ繰り返した。ベクション強度は、マグニチュード推定法によって、0から100の値で主観的な強度を口頭で報告させた。 その結果、姿勢と観察スタイルは、ベクションの強度に影響を及ぼすことが明らかになった。しかし、一方で、ベクション強度はかなりの一貫性を保つことも明らかになった。少なくとも、着座と立ちの2つの姿勢には差が無かった。仰向けの姿勢は、ベクション強度に影響を及ぼした。90度以上の体の傾きが、ベクションの変調には必要である可能性がある。今後は、十数度刻みで、体を回転させて、それぞれのベクション強度を取得して比較するような実験が今後必要である。 次に、逆さぶらさがり器を用いて、逆さ姿勢と正常姿勢との2条件の比較を行った。その結果、ベクション強度は、逆さ姿勢で有意に弱くなる事が明らかになった。ここでも、やはり90度以上の体の回転で、ベクションが弱まる事がわかったと言えるだろう。 様々な姿勢は、身体の座標系を変化させた。一方で、刺激自体は常に同一であり、網膜座標系のレベルでは、常に同じものが提示されていたわけである。したがって、ベクションは網膜座標のみでは決まらず、身体や頭部の座標系の影響を受ける事が明らかにできた。
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