実世界での人間の動きを観察すると,その動きは実に多様であることに気付く.それは,記憶した動きが多様であるだけでなく,実世界が複雑であり,それに対応する結果として多様な動きが生まれてくるのである,単純に記憶した動きを再生するだけでなく,記憶を参照しながらも,実世界からの知覚を巧みに利用する運動制御法を開発する必要がある.本研究課題では,平成29年度においては,以下の研究を実施した. (1)ヒューマノイドロボットを制御する遠隔操作システムを開発した.遠隔操作システムは,ヒューマノイドロボット,力伝達可能なハプティックデバイスおよびロボットの視覚映像を映し出すディスプレイから構成される.ロボットの周辺の状況を観察し,ロボットの手先が受ける外力を感じながら,ロボットを操縦することができるシステムである.使用するヒューマノイドロボットには,足首に6軸力センサが搭載されているが,手先には力センサが取り付けられていない.ヒューマノイドロボットの静的安静時を仮定した力の平衡関係式を利用して,手先の外力を推定する方法を開発した. (2)遠隔操作のみでロボットを制御した時の外力および全身の関節角度の時系列データを統計モデルによって記憶する.この記憶を参照できる遠隔操作システムを構築した.統計モデルでは,外力および関節角の出力分布を表すノード,運動の時間遍歴を表すノード間の遷移によって運動が表現されている.遠隔操作中の現在までの外力・関節角度の時系列データから推定されるノードと学習時のノード遷移を比較して,タスクの進捗状況を監視する.タスク進捗の状況に応じて,統計モデルから生成される関節角や手先外力のタイミングを調節することによって,操縦者の意図をくみ取りながら,その意図に抗うことなく状況に応じた動きを生成・制御できることを実験によって確認した.
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