研究課題/領域番号 |
26700027
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
原 正之 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (00596497)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 感性情報学 / 身体的自己意識 / 身体所有感 / ハプティックインタフェース / リハビリテーション |
研究実績の概要 |
まず,二人称視点で自身の身体にセルフタッチを行った際にヒトの身体認知・認識がどのように変化するかを検証した.具体的には,カメラで対面から撮影した研究参加者の映像をヘッドマウントディスプレイに提示し,研究参加者はその映像(仮想身体)を凝視しながら昨年度開発した実験用プラットフォームを用いて自身の胸腹部にタッピング刺激を与える実験を同期/非同期(映像に500msの遅れを導入)条件で行った.結果,仮想身体の動作と触刺激のタイミングが同期する場合は,従来研究の報告と同様に仮想身体の身体化が生じ,非同期の場合には仮想身体を他者と認識するようになることがわかった.このことから,自己インタラクションに視覚情報の時間的な遅れを導入するだけで,自他認識を変化させることができることを示唆した.
また,温感ディスプレイを用いてアクティブセルフタッチ時に身体あるいは人工/仮想身体との接触温度を変化させる実験用プラットフォームの試作も行った.平成28年度に購入したサーモグラフィカメラなどを用いてその基本特性・性能評価を行い,ヒトの身体所有感操作実験に対する有用性を確認した.さらに予備実験として体温条件でアクティブセルフタッチ実験を行った結果,開発した実験用プラットフォームによりセルフタッチ錯覚を誘起できることを確認した,これにより,ヒトが無意識に持つ体温感覚と身体所有感の関係について議論をすることを可能とした.
その他の成果としては,Feeling of Presenceを実験的に引き起こす装置の2号機を作製してスイス連邦工科大学に持ち込み,認知神経科学研究者との国際共同研究を行った.またリハビリテーション装置や痛み刺激装置とアクティブセルフタッチを組み合わせたシステムの開発も行っており,ヒトの身体所有感操作に関する知見を医療・健康/福祉分野で応用する準備が整いつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究では,昨年度開発した二人称視点で自分自身との物理的インタラクションを可能にする実験用プラットフォームを用いて,予定していたヒトの身体認知に関わる実験を行い,自己インタラクションと身体所有感に関する興味深い結果を得ることができた.また,バーチャルリアリティを用いた実験システムを使ったラバーハンド・イリュージョン実験では,身体の一部位の単純な動作で他の動作しない身体部位の身体所有感も向上させることができることを示唆した.これらの成果は,国際会議や国内会議で数件発表しており,ヒトの身体所有感・身体認知に関する新たな知見・可能性を国内外に発信できたものと考える.
また,前年度に研究の推進方法で計画した触感とヒトの身体所有感の関係の検討については,温感ディスプレイを用いた新たな実験用プラットフォームの試作機が完成しており,開発したプラットフォームの有効性を性能的にも実験的にも確認できた,また,Feeling of Presenceを引き起こす実験用プラットフォームの2号機の作製も行い,スイス連邦工科大学の認知神経科学研究者との国際共同研究を加速させることに成功した.さらには,指の他動装置を用いた身体所有感操作を可能とするシステムの開発も行い,最終年度にヒトの身体所有感操作や身体錯覚の知見をリハビリテーションなどの分野で試す準備を整えることができた.
このように本年度は新たな装置の設計・開発から認知神経科学実験まで幅広く行っており,本研究課題は計画通りにおおむね順調に進んでいるものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,ヒトの身体所有感・身体認知に関する知見を医療/健康・福祉分野で応用することを考えながら,これまでに開発した実験用プラットフォームを用いてヒトを対象とした実験を行っていくことに主眼を置く.
本年度の研究で温感ディスプレイとアクティブセルフタッチを組み合わせた実験用プラットフォームを開発し,その有効性を確認することができたので,当面は温感ディスプレイの応答性・制御特性のさらなる改善を行うとともに体温感覚と身体所有感との関係について詳しく検証していくことを予定している.具体的には,アクティブセルフタッチを可能としたラバーハンド・イリュージョン実験において,スレーブロボットが研究参加者の身体に触れた際の提示温度と研究参加者が人工/仮想身体に触れる際に知覚する温度を様々に変化させ,ヒトが無意識に持つ体温感覚の身体所有感発生に対する役割を明らかにすることを試みる.実験の進捗度合いによっては温感のみならず,他の触感(例えば,ざらざら感,柔らかさ感,など)提示装置も導入し,ヒトの身体特性の変化が身体所有感に及ぼす影響についても検討していきたい.
また国際共同研究に関しては,本研究課題で開発した実験用プラットフォームをいくつかスイス連邦工科大学に持ち込んでおり,精神疾患・神経疾患の患者を対象とした実験を認知神経科学者と共同で進めていく.応用研究に関しては,すでに片麻痺のリハビリテーション用にヒトの身体所有感操作を可能とする実験用プラットフォームの構築ができているので,昨年から新たに共同研究を始めた基礎理学療法学研究者とともにその有効性について検証していく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の報告書にも記載した米国Virtuix社の全方位トレッドミル(Virtuix Omni)について,すでに事前支払い(約20万円)による予約購入が済んでおり本年度の納品を待っていた.しかしながら,昨年末にVituix社から,製品の重量と梱包に問題があり,また交換部品の確保・保管を含めると,国際的な規則に従って世界各地の顧客にサポートすることが困難であるとの連絡を受け,最終的に米国外からの全ての予約注文に対してキャンセルが行われるという不測の事態が生じた.キャンセルおよび返金手続等がすべて終了したのが今年の3月であり,Virtuix Omni購入用に残しておいた基金助成金を他のものに充てるだけの十分な時間が取れなかったため,次年度使用額が生じてしまった.
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次年度使用額の使用計画 |
現在,Viruix Omniやその代替品の購入は難しいため,次年度使用額は消耗品(機械・電子部品など)の購入あるいは平成29年度に行う実験の参加者に対する謝金に充てることを計画している.
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