本年度は,平成28年度に開発した装置のアップデートを行うとともに学会発表(招待講演)および論文の執筆に注力した.平成29年度の主な研究成果は以下の通りである.
まず,昨年度試作した温感ディスプレイとマスタスレーブシステムを利用したアクティブセルフタッチシステムを認知神経科学実験を行うのにより適した構成に改良した.この実験システムとセルフタッチ錯覚の実験パラダイムを用いて,右手人差指で左手の甲をセルフタッチする感覚を疑似的に作り出し,接触温度を様々に変える実験(低温,体温,高温)を行った結果,ヒトの体温と異なる温度提示の場合にはセルフタッチ錯覚が生じにくくなることが示唆された.新しい試みとしては,力覚フィードバックの変化がSelf-Ticklingに及ぼす影響を明らかにするために,脇腹を同期/非同期あるいは様々な力フィードバックで突くことを可能にするSelf-Ticklingシステムの開発を行った.同期条件でのSelf-Ticklingでも,接触時に脇が受ける力と手・腕が受ける反力に不一致がある場合にはくすぐったさを感じるであろうという仮説を立て,手・腕にフィードバックする力を様々に変化させる実験を行った結果,予想に反して力覚フィードバックよりも運動主体感の方が支配的である可能性が示唆された.また国際共同研究に関しては,Feeling of Presenceを実験的に引き起こすための実験システムを用いて,Presence Hallucinationの神経機構を解明するための実験をfMRI環境で行うことに携わった.実験の結果,軽度の精神病との新たな神経相関が示された.
これらの研究成果のいくつかは国際学術雑誌や国内/国際会議で公表・発表しており,現在はフルボディ錯覚と思考操作に関する国際共同研究の成果もインパクトファクターの高い国際学術雑誌に2編投稿中である.
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