研究課題/領域番号 |
26700028
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西浦 博 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70432987)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 感染症情報 / 理論疫学 / 逆計算 / 統計学的推定 / 疫学 |
研究実績の概要 |
限られた例外を除いて、感染というイベントは直視下で観察することができない。感染に関わる事象を知るには、発病や診断など「目に見える」現象を基に統計学的推定を実施する必要がある。本研究の目的は、感染症の発病情報を畳み込みをはじめとする数理モデルを用いて分析し、感染動態の理解や感染症対策の評価に役立てることである。特に、モデル構造とモデル化に必要な想定を明らかにすることに焦点を当てて基礎的方法論を確立する。具体的な研究課題として、(i)AIDS患者数情報を利用したHIV感染者数の逆計算、(ii)報告の遅れを利用した流行のリアルタイム分析、(iii)院内感染や輸入感染の鑑別診断、(iv)感染症対策の評価、について検討する。初年度となる平成26年度は (1)数理的定式化・データ整理、(2)抗ウイルス療法下・サーベイランス制度変更下のHIV逆計算、に取り組んだ。交付内定前に定式化の骨格となるモデルの構築を完了しており、それに加えて相対的感染性の推定を可能にするモデルと潜伏期間と世代時間の従属性を加味したモデルによる輸入感染症・院内感染症の鑑別診断に向けて、積分方程式を利用した定式化を行った。具体的にはマッケンドリック方程式によって感染後経過時刻を加味した齢構造化モデル及び伝播と発病の関数に従属性を加味したモデルを利用し、それを基に尤度方程式を導出した。その間、天然痘・インフルエンザの流行データのうち、分析に利用するものについて文献整理・データ入力を行なった。特に尤度方程式に応じたまとめと欠損データの処理の検討を考えた。実用例として抗ウイルス療法下・サーベイランス制度変動下のHIV感染者数の逆計算を実施検討を開始した。また、エイズ発病のハザードhに加えて診断のハザードh’を考慮した競合リスクモデルを基本構造として逆計算の検討を開始している。これら同時推定は世界で発の試みとなる見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた (1)数理的定式化・データ整理、(2)抗ウイルス療法下・サーベイランス制度変更下のHIV逆計算、に順調に取り組むことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、上記の課題に関する研究成果の論文発表に努める。それらに引き続き(1)鑑別診断のベイズモデル、(2)インフルエンザのリアルタイム分析を実施する予定である。(1)鑑別診断のベイズモデル:過去に議論した鑑別診断での潜伏期間の使用方法を基礎に、輸入感染者の帰国後日数や院内感染の入院後日数を利用した診断モデルを構築する。前年度の積分方程式モデルを利用する。特に、感染地の感染リスク分布を加味した実用モデルを目指す。(2)リアルタイム分析:報告の遅れの分布を利用した逆計算をリアルタイムで実施する。インフルエンザを対象に、流行予測とNow-casting(現状理解)を目的とした畳込みの活用を検討する。
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