腸内細菌を初め人体のあらゆる場所に棲息する共生微生物は、ビタミンや糖質など様々な生体内化合物を介して宿主と相互作用している。共生微生物叢のバランス変動が疾病の原因となりうることから、本研究計画の目的は、共生微生物叢からヒトに至るまでの代謝経路の探索と疾患の原因因子を発見するための技術開発である。これを実現するため、ゲノム、メタゲノム、メタボローム等の複数オミクスデータから、どの場所でどの生物種がどの代謝機能を担っているかを明確化し、ヒト-微生物間相互作用ネットワークにおける疾患因子をプロファイリングする。平成29年度は、前年度に引き続き、ヒト腸内細菌叢におけるメタゲノムデータからの代謝ネットワークの再構築を実施した。約1千万にも上る腸内細菌遺伝子のアノテーションを実施するには計算コストが非常に膨大なものになる。そのためKEGGで開発されたKAAS自動アノテーションシステムの改良版および相同性検索ツールGhostXを利用し、大量に存在する腸内細菌メタゲノムデータにアノテーションを付与した。これにより各個人の腸内環境で、どのような代謝ネットワークが出来上がっているか推定できるようになったが、さらにその中で書く微生物種が担う部分ネットワークを推定するために、微生物種間で相互作用に使われる遺伝子ペアとその代謝化合物の探索手法の改良を行った。また、ヒト代謝ネットワークにおける翻訳後修飾の進化的な役割やゲノム変異等の影響についての解析においても成果が出てきており、腸内細菌叢からヒトまでの代謝ネットワークの繋がりについて研究を進めている。
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