研究課題/領域番号 |
26701006
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
宮本 達雄 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 講師 (40452627)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | DNA修復 |
研究実績の概要 |
分裂期のDNA二重鎖切断(DSB)は、高度な染色体凝縮のため、修復されにくいことが知られており、これが分裂期の放射線高感受性の主要因であると考えられている。最近、ショウジョウバエではBUBR1依存的に染色体断片を元の染色体に係留するDNA tether構造が発達しており、分裂期染色体の微細構造がゲノム安定化を担うことが示唆された。本研究では、ヒト細胞におけるDNA tether構造のダイナミクスと分子構築を明らかにして、放射線による染色体断片化を防ぐ機構の解明を目的としている。 平成26年度は、任意のタイミングでゲノム上の標的配列にDNA二重鎖切断(DSBs)を導入できる誘導型人工ヌクレアーゼを作製して、実験ごとに均質な染色体断片を誘導する実験系を確立することを試みた。具体的には、グルココルチコイド受容体とCas9タンパク質との融合遺伝子を作製して、デキサメサゾン依存的に標的配列にDSBを導入するCRISPR/Cas9システムの構築を行った。 また、ヒト培養細胞を用いたゲノム編集技術の安定化のために、ゲノム安定性に関わる分裂期キネシンKIF2Aの欠損細胞の樹立と機能解析を行った。その結果、KIF2A分子の新しい機能として細胞分裂と共役した一次繊毛退縮能を見出して、本機能の恒常的な亢進が先天性分裂期チェックポイント欠損症(PCS症候群)の繊毛病発症機構の一つであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度は、実験ごとに均質な染色体断片を誘導する実験系として、グルココルチコイド受容体とCas9タンパク質との融合遺伝子(GR-Cas9)を作製した。GR-Cas9はデキサメサゾン依存的に標的配列にDSBを導入することを迅速なCelIアッセイ法を用いて確認した。 さらに、ヒト培養細胞におけるゲノム編集技術の整備として、ゲノム安定性を担う分裂期キネシン分子KIF2Aの欠損細胞株の樹立と細胞機能解析を行い、KIF2Aによる細胞増殖に連動した一次繊毛抑制経路を見出し、本経路の亢進が繊毛病の病理機構の一つであることをCell reports誌に報告した。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度に、誘導型人工ヌクレアーゼの構築とヒト培養細胞におけるゲノム編集技術の整備を行ったので、次年度はこれらの技術を用いて、放射線照射後の染色体の微細構造の動態を蛍光タンパク質でクロマチン標識した細胞のライブイメージングを行い、染色体断片を元の染色体に係留するDNA tether構造の動態と細胞運命を追跡する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、ヒト培養細胞系における誘導型人工ヌクレアーゼの実験系の構築が順調に進み、経理的にも低コストで行うことができ、物品費の未使用額が生じた。次年度には、これらの人工ヌクレアーゼや放射線照射後に生じる染色体の微細構造のリアルタイム観察など高額な物品費を要する実験計画があるため、平成26年度の未使用額を次年度使用額として計上したい。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に構築したヒト培養細胞系における誘導型人工ヌクレアーゼを利用して得られる染色体断片化や放射線照射後に生じる染色体の微細構造をリアルタイム観察を行うことによって、分裂期染色体の安定化機構の動態を明らかにする予定である。これらの実験系にかかる顕微鏡備品や実験試薬にかかる物品費を平成26年度未使用額を用いて購入する予定である。
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