研究課題/領域番号 |
26701010
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
吉田 奈央子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10432220)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化グラフェン / 微生物燃料電池 / ジオバクター / グラフェン / 黒鉛 / 細胞外電子伝達 |
研究実績の概要 |
本研究は、微生物による細胞外電子伝達により酸化グラフェン(GO)をグラフェンへと還元し、化学的に安定で比表面積が大きな導電性炭素分子の微生物担体の電子伝達反応場として用いることを目指すものである。特に、形成された微生物-炭素電極複合体の評価を行うとともに、微生物によるGO還元による反応場の形成機構を明らかにすることに取り組む。本年度は、第一に、GO還元培養により電流生産微生物が選択的に培養できるかについて明らかにするため、GO還元培養物において集積された微生物組成を決定した。結果、4種の環境試料からGO還元培養によってジオバクター属を中心とした電流生産微生物が集積されることを示した。さらに純粋分離したジオバクターR4株について解析した結果、培養日数が経過するとともにC-Oが減少しC=Cが増加する傾向が観察され、R4株を接種したGO添加培養物でのみ酢酸濃度が有意に減少した。この間のR4株の生育を定量PCRによる16SrRNA遺伝子コピー数により評価したところ、GOおよび酢酸の両方が存在するときのみ微生物が増殖した。以上の結果は、R4株が酢酸を電子供与体、GOを電子受容体としたGO還元呼吸によって増殖できることを示しており、GO還元により微生物が増殖することを示した初めての例である。 さらに、R4株により形成した還元GO複合体電極および微生物燃料電池のアノード素材として一般的に用いられるグラファイトフェルト(GF)を用いた定電圧培養試験により電流生産能の比較を行った。R4株においては、還元GO電極において、GFに比べ著しく電流生産が高いことが示された。さらに、サイクリックボルタンメトリー(CV)試験および交流インピーダンス測定を行った結果、GFと比べて、電気二重層容量が大きく、電荷移動抵抗も著しく小さいことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画として、ジオバクターR4株において、既存の炭素電極との電流生産能の比較、さらにGO還元集積培養を行った複合微生物試料について内部の微生物組成を決定することを挙げていた。結果として、GO還元培養により電流生産微生物が選択的に集積されることを明らかにし、また、定電圧培養試験においてGOを用いた場合の電流生産性がGFに比べて高い、電気二重層容量が大きい、また電荷移動抵抗が小さいことを示した。これより、本技術が既存の炭素電極に比べ電流回収性に優れる、また機能微生物の選択的集積性を有することを実験的に立証するという本年度の目的が達成された。これより、本研究は計画通りに進行していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、GOがGFに比べて高い電流生産を示す機構を解明するべく、下記の実験に取り組む。本年度の結果において電気二重層量と電荷移動抵抗において還元GO電極が優ることが明らかにされた。一方で、定電圧培養の培養物の外観にGO電極を使用した培養物とGFを用いた培養物では、それぞれ電極表面、培養物全体に微生物増殖が観察された。このことは、電極材料によって細胞の電子伝達機構が切り替わり還元GOが電極表面により細胞増殖に引き起こすことを示唆している。今後は、この仮説を立証するべく、電極および培養液あたりのバイオマス量をGO電極またはGF電極を用いた場合で比較する。さらに、これまでに観察された電流生産能の優位性やバイオマス増殖の切り替え等が、R4株に特異的に観察されるものか、一般的な電流生産微生物にも共通するものかを明らかにするため、ジオバクター属の基準株を用い、同様の現象が観察されるか試験する。 第二に、R4株のゲノム配列解析を行い、GO還元時および還元GOおよび黒鉛フェルトからの電流生産時の生理状態をRNAオミクス比較解析により示す。これより、GOが存在しない培養条件下とGO存在下での形態変化の機構を明らかにするとともに、GO電極またはGF電極における電子伝達機構の切り替えが生じているか明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初顕微鏡観察のための備品を予算計上していていたが、研究を進める中で、学内内外との連携体制を整え共同利用装置を利用することができたたため、備品を購入する代わりに受託解析や共同利用装置費用とすることで、節約した。
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次年度使用額の使用計画 |
顕微鏡観察およびシーケンス解析等の共同利用装置装置受託解析費用に充てる。具体的には、バイオマス測定および電極上の細胞形態観察のためのSEM観察費用、さらにR4株のゲノム配列解析、RNAオミクス比較解析費用に充てる。
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