本研究は、微生物による細胞外電子伝達により酸化グラフェン(GO)をグラフェンへと還元し、化学的に安定で比表面積が大きな導電性炭素分子の微生物担体の電子伝達反応場として用いることを想定し、還元GO(以下rGO)が微生物の電子供受反応場として優れる機構を解明することを目指した。酸化グラフェン呼吸を行うジオバクターR4株をモデル微生物として用い、rGO複合体電極および微生物燃料電池のアノード素材として一般的に用いられるグラファイトフェルト(GF)を用いて電流生産能を比較した結果、rGO電極において、GFに比電流生産が長期間にわたって安定的に持続することを示してきた。この電流生産が安定であることが何に起因するのかを調べるため、rGOまたはGF上で特に活発に転写される遺伝子をトランスクリプトーム解析によりスクリーニングした結果、rGO上で有意に転写された遺伝子群は61遺伝子であり、多糖類合成関連遺伝子群や外膜上シトクロム等、電極との直接的な電子供受にかかわる遺伝子が含まれた。一方、GFで有意に転写された遺伝子群は、473遺伝子にのぼり、化学走化性に関わる遺伝子、具体的には鞭毛や化学物質を感知するセンサータンパク質などが特徴的であった。さらに、両電極上で培養を行ったR4株についてタンパク租抽出液をPAGE泳動し、シトクロム等のヘムタンパク質を特異的に染色した結果、GFでは13、rGOでは3つのヘムタンパク質が検出され、トランスクリプトーム結果と同様、ヘムタンパク質の発現においても、GFにおいてrGOに比べて多くの種類のタンパク質が発現されていることが示唆された。これらの結果より、R4株がGF上で生育するには、rGO上で生育するのに比べてより多くの遺伝子発現が必要であると示された。言い換えれば、rGO電極はR4株が生育する上で遺伝子発現にかかるエネルギーコストを抑えられる事が示された。
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