研究課題
本研究では、熱プロセスに係る不均一固相を対象とし、そこでの有機ハロゲン化合物の生成機構解明を目的とする。2015年度の研究成果および進捗状況は以下である。2014年度に明らかとなった廃電気・電子製品(e-waste)野焼き土壌中における99.9%以上の未同定有機塩素化合物の候補として、多環芳香族炭化水素(PAHs)に塩素・臭素が置換した化合物類(Cl/BrPAHs)を定量した。その結果、ガーナ、フィリピン、ベトナムの野焼き土壌において高い毒性を示すことが明らかとなった。本成果は国際学会(Dioxin 2015)にて発表し、新規性の高さからOtto Hutzinger Student Awardを受賞した。ガーナで採取したe-waste野焼き土壌を対象とし、ダイオキシン類縁化合物(DRCs)と重金属類との統計的分析およびX線吸収微細構造(XAFS)法による化学形態分析を通じて、銅の化学形態変化による有機ハロゲン化合物の生成経路が示された。この結果は、これまで提唱されていない経路であり、本成果はEnviron. Pollut.誌に受理・掲載された。また、有機塩素化合物の強力な抑制剤としてチオ尿素を探索的・実験的に見出だし、多元素の化学形態分析により金属触媒の硫化、炭素骨格の変質、発生ガスの窒素との反応といった抑制機構を解明した。本成果はJ. Hazard. Mater.誌に受理・掲載された。新たに設計・導入した反応セルを用いた化学形態のその場観察法の測定を実施し、有機炭素の熱化学的な臭素化および塩素化機構に関するデータセットを測定することに成功した。この他に、有塩素化合物の熱化学的生成に対する炭素ナノ材料(フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等)の影響評価、水蒸気による制御効果の検討、e-waste野焼き土壌における測定値の代表性評価などの研究を推進した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画していた反応機構解明へ向けた研究群は順調に進行し、多岐に渡って想定以上の成果を得ている。これまで報告例のないe-waste野焼きからのCl/BrPAHsの発生実態の解明、重金属触媒様作用による有機ハロゲン化合物生成への寄与、化学種の複合的同定によるチオ尿素による抑制機序の把握、新型反応セルによる化学形態のその場観察実験の成功など、計画していたモデル系の研究成果以外に、最終年度に計画していた実試料を用いた系での研究をも推進することができた。研究成果も、国内外での学会発表および査読付き英語論文の形で順調に発表出来ている。以上より、「当初の計画以上に進展している」と考えられる。
実試料を含めた研究成果は前年度までの2年間で一定の成果が得られており、研究テーマのさらに推進・進展させる。モデル系と実試料の実験系をリンクさせ、最終的には多角的かつ統合的な見地から有機ハロゲン化合物の熱化学的生成の仕組みの理解を目指す。実験的な研究推進と並行して、最終年度では、既に得られている成果について、学会での発表と共に学術誌への投稿していく。
計画していた人件費・謝金を使用する必要がなくなったこと、実験用に作成したセルの費用を抑えることができたことなどにより、実験推進に必要な物品費、旅費などの諸経費を補助金の範囲内で執行することができたため。
次年度は最終年度になるため、繰り越した基金分を補填することにより、今年度と過不足なく同程度の物品費、旅費などへの利用を計画している。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
Environmental Pollution
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10.1016/j.envpol.2015.11.031
Journal of Hazardous Materials
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10.1016/j.jhazmat.2016.02.054
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