研究実績の概要 |
過年度該研究において製造した中国式松煙煤試料群の凝集体規模について粒度分布測定等を行ない、下掲の知見を得た。該試料群は『天工開物』(宋応星, 明代)「朱 墨」項記載方法の推定近似復元により得たものである。なお同書には、松煙煤は製品等級を区別して扱われていた旨の記述があった。往古の松煙煤製造において採取位置を分けたのは粒子径の異なる煤を得るためであったと屡々仄聞したが、凝集体規模について実験結果は該巷説を支持しなかった。ただし製墨時の混練処理等を経て維持されるアグリゲート規模との関連については検証余地が残される。炉が小径で低断熱性、かつ時間毎原料投入量の多い条件において、設備集塵部分から得られた試料群は他条件試料と比し概して特に大きい凝集体規模を示した(平均径30μm程度以上)。一方、一次粒子径が0.2μm程度と概して大きいことが過年度に確認された、炉が小径で高断熱性、かつ時間毎原料投入量の多い条件で得られた試料群は、凝集体規模については他試料と比して特に大きな値を示さなかった(平均径数μm程度)。また炉が大径の試料群は総じて凝集体規模が小さく、平均径が1μmを下回る試料が多く認められた。 近代以前の古典的膠について『墨譜』(李孝美, 宋代)、『墨経』(伝 晁貫之, 宋代)には牛剃毛生皮を原料とする製造方法が略述されている。本研究ではこれを多角的に検討し、該材料の体系化をより広範に進めた。特に『墨譜』「膠二」項の処理方法を勘案し、原皮より表皮層切除を行なう方法を試行した。また本研究により得られた各知見を元に、書画等文化財修理用膠の選定並びに製造提供等を行なった。
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