研究課題/領域番号 |
26702010
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松四 雄騎 京都大学, 防災研究所, 准教授 (90596438)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 表層崩壊 / 宇宙線生成核種 / 土層形成速度関数 / 航空レーザー測量 / 斜面水文 |
研究実績の概要 |
2013年10月および2014年8月に,それぞれ表層崩壊による斜面災害の発生した伊豆大島および広島県広島市を調査対象地域に追加した.これらの地域について,航空レーザー測量データに基づいて細密地形モデルを作成し,地理情報システム上で,表層崩壊発生場の地形的特性と崩壊をもたらした降雨との対応関係についての解析を行った.この結果,大部分の山地斜面には,潜在的に崩壊危険度の高い斜面が多く存在し,斜面傾斜と崩壊予備物質の厚みの組み合わせにより,それらを抽出することに成功した. 表層崩壊の発生条件を調べるため,京都白川流域,伊豆大島,広島県庄原市および広島市で採取した不撹乱土壌試料を用いて,透水試験,圧力拡散試験,せん断試験などの土質試験を行った.また,表層崩壊の発生時予測の精度を向上させるため,土層浅部の圧力水頭を観測できる装置を作成した.伊豆大島では,テフラの成層構造が圧力水頭の変動に決定的な役割を果たしており,相対的に不透水性の風成二次堆積物上で,大強度降雨時に宙水が形成されることが明らかとなった.そして,せん断強度の小さい降下火山灰層をすべり面として表層崩壊が発生することを突き止めた. 宇宙線生成核種を用いた土層形成速度の定量化については,京都白川および広島県広島市においてサプロライト試料を採取し,加速器質量分析による同位体分析を行った.この結果,土層の形成速度は千年あたり10-30 cmであり,尾根上の1 mよりも薄い土層は数千年以内に更新されることが明らかになった.また,土層の形成に伴って,土粒子構成鉱物からの元素溶脱が進み,化学性も変化していくことが明らかとなった.今後,土層の輸送シミュレーションを行い,谷頭凹地への崩壊予備物質の集積過程を再現するとともに,土層の時間的な物性変化を踏まえて表層崩壊の周期的発生についての考察を行っていく予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の立案以降に発生した表層崩壊災害を受けて,新たに調査地域を追加するなどしたため,タスクが増大し,全体的にややもたついた状態ではあるが,当初の計画に沿って,地理情報システム上での空間解析,現場試料の土質試験,宇宙線生成核種の分析を行うことができている.特に伊豆大島での発災例の研究では,テフラの堆積地域での表層崩壊についてその実態やハザードマップ作成方策についての重要な知見を得ることができた.また,宇宙線生成核種の分析では,期待通りの土層形成速度関数を得ることができ,崩壊予備物質としての土層の空間分布を計算する準備が整った.加えて,土質試験や宇宙線生成核種の分析のための実験環境が充実し,初年度として十分な走り出しとなった.ハンドヘルド型蛍光X線分析装置については,実験室内での岩石粉末試料の測定は順調に行えたものの,野外に持ち出しての分析には,確度・精度の点で検証が必要であることが分かった.
|
今後の研究の推進方策 |
新たな災害の発生は,表層崩壊の実態や発生条件を詳細に調べる機会でもあるため,来年度も,2013年度および2014年度に発災した現場での踏査・観測・分析を継続する.また広島市での発災例は,崩土量予測の重要性に対する認識を新たにさせるものであった.崩土量予測において,土層厚の空間分布把握は最重要の課題であり,本研究で計画しているように宇宙線生成核種を援用した手法をさらに進め,現場での土層厚測定によって検証を行っていく方針である.また,土層形成速度の一般性についての議論を行うため,気候環境の異なる地域において,同手法を適用し,より多くの土層形成速度関数データを蓄積する予定である. 斜面水文観測についても,計画地域でのデータ獲得を推進していく予定である.今後,多地点で降雨浸透に伴う圧力水頭の応答を観測し,そのデータを用いた降雨浸透過程のモデル化を試みる. ハンドヘルド型蛍光X線分析装置を用いた土層および風化岩の化学分析による風化帯構造の把握については,野外で掘削したピット壁面や風化帯断面の露頭などを利用して,化学物性の鉛直プロファイル分析を行っていく予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験実施および勤務曜日の都合上,実験補佐員の出勤日数を調整したため.
|
次年度使用額の使用計画 |
実験補佐員の人件費に支出する.
|