研究課題/領域番号 |
26702011
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
吉原 利忠 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (10375561)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | レシオ / 蛍光 / りん光 / 酸素 / イリジウム錯体 / 細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は,細胞内の酸素濃度および濃度分布を高感度,非侵襲的にリアルタイムイメージング,計測するための蛍光・りん光同時発光型分子酸素計を開発することである。本年度は,青色蛍光を示すクマリン系蛍光色素であるC343と,深赤色りん光を示すカチオン性イリジウム錯体である(btq)2Ir(phen)をプロリン残基数4および8のオリゴプロリンリンカーで結合させたC343-Pro4-BTQphen,C343-Pro8-BTQphenの合成を行った。開発したC343-Pro4-BTQphen,C343-Pro8-BTQphenは,アセトニトリル中においてC343由来の蛍光と(btq)2Ir(phen)由来のりん光が観測された。また,溶液中の酸素分圧をマスフローメーターで0-160mmHgの範囲で変化させたところ,C343の蛍光強度は一定の値を示したのに対して,(btq)2Ir(phen)のりん光強度は,酸素分圧の増加ともに減少を示した。 21%酸素条件下で培養したHeLa,MCF-7細胞にC343-Pro4-BTP, C343-Pro4-BTQphen,C343-Pro8-BTQphen溶液を最終濃度2μMで添加し,4時間培養後,蛍光顕微鏡で観察をおこなったところ,C343-Pro4-BTP は培養液中で凝集体を形成するため顕微画像の取得が困難であるのに対して,今年度合成したC343-Pro4-BTQphen,C343-Pro8-BTQphenは細胞内から明瞭な発光が観測された。また,C343に由来する蛍光は,培養酸素濃度に依存しないのに対して,(btq)2Ir(phen)に由来するりん光は,2.5%酸素条件下において,21%酸素条件下よりも増加し,レシオ型酸素プローブ分子としてより有効に機能することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,細胞内の酸素濃度および濃度分布を高感度,非侵襲的にリアルタイムイメージング,計測するための蛍光・りん光同時発光型分子酸素計を開発することである。本年度は,蛍光団として青色蛍光を示すクマリン色素(C343)とりん光団として深赤色りん光を示すイリジウム錯体((btq)2Ir(phen))をプロリンリンカーで結合させたC343-Pro4-BTQphen,C343-Pro8-BTQphenの合成を行なった。これらの化合物は405nm光励起によって,アセトニトリル中において蛍光とりん光が同時に観測された。また,系中の酸素分圧を変化させて発光スペクトル測定を行ったところ,C343由来の蛍光は酸素分圧に対して一定強度を示したのに対して,BTP由来のりん光は,酸素分圧の増加に伴い減少した。C343-Pro4-BTQphen,C343-Pro8-BTQphen溶液をHeLa,MCF-7細胞の培地に添加し,蛍光顕微鏡で観測した結果,細胞内から蛍光とりん光が観測され,さらに,りん光強度は低酸素培養条件で増加した。また,C343-Pro4-BTQphenとC343-Pro8-BTQphenの発光強度を比較するとC343-Pro8-BTQphenのほうが高い値を示していることから,レシオ型酸素プローブとしてより有効に機能することが明らかとなった。さらに,C343-Pro8-BTQphenにおいては,市販の蛍光プレートリーダーを用いて,蛍光とりん光の強度比が測定できることが明らかとなった。 以上の結果より,C343-Pro8-BTQphenは,蛍光とりん光のレシオを利用することにより,溶液,脂質膜,細胞中の酸素濃度を定量的に解析できるプローブ分子であることがわかり,本年度の目標に到達している。現在,Sensorsに論文投稿を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度開発したC343-Pro4-BTQphen,C343-Pro8-BTQphenは,生細胞内において酸素濃度に依存して,蛍光に対するりん光強度比が変化することが確認でき,また,これまで研究代表者が開発してきた化合物と比較して細胞親和性が向上した。今後は,さらなる細胞親和性の向上を目指して新しいレシオ型酸素プローブを開発する。その方策として,これまでオリゴプロリンをリンカーとして用いてきたが,それをオリゴアルギニンに変えることを実施する。合成したレシオ型酸素プローブはHeLa,MCF-7細胞だけでなく,他の細胞を用いて同様な実験を行い,レシオ型酸素プローブ分子として汎用的に使用可能か検討する。 平成26年度は目的化合物の合成が予想以上に進展したため,試薬,消耗品費が予定よりも少なくなり,その差額を平成27年度の試薬,消耗品費に充てる。平成27年度は,目的化合物を高率的に分離・精製するためにHPLCを備品として購入する。また,新しいレシオ型酸素プローブを開発するための試薬や,種々の細胞で評価するための試薬,溶媒,細胞培養のためのプラスチック類を消耗品費として研究費を使用する。また,研究成果発表のための旅費として研究費を使用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は目的化合物の合成が予想以上に進展したため,試薬,消耗品費が予定よりも少なくなり,その差額を平成27年度の試薬,消耗品費に充てる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は,目的化合物を高率的に分離・精製するためにHPLCを備品として購入する。また,新しいレシオ型酸素プローブを開発するための試薬や,種々の細胞で評価するための試薬,溶媒,細胞培養のためのプラスチック類を消耗品費として研究費を使用する。また,研究成果発表のための旅費として研究費を使用する。
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