研究実績の概要 |
鳥の呼吸器内では,分岐部分において構造的な弁無しに,空気が特定の方向にのみ流れる.この機構として吸入空力弁がある.吸入空力弁は,一次気管支分岐上流にある狭窄によって,吸入された空気が加速され,慣性力によって流れの剥離が生じ,主気管支から分岐する気道には流れず,主気管支に特異的に誘導されるというものである.しかしながら,流入した空気の内,どの程度が主気管支側に誘導されるのかということについて定量的なデータはなく,吸入空力弁の効果は不明である.そこで,本年度はウズラを題材として,昨年度構築した鳥呼吸器内気流のマルチスケールモデルを用いて吸入空力弁効果の定量化を行った. 狭窄の比率を狭窄率とすれば,安楽死させた状態の狭窄率は22%であった.この狭窄率を0, 30, 50, 70, 90%にそれぞれ変化させ,解析を行った.分岐部分において主気管支方向に誘導された気流の割合は順に,0.45, 0.46, 0.49, 0.54, 0.59, 0.80であった.このことから,一次気管支分岐上流にある狭窄の比率が増加することにより,吸入空力弁効果は指数関数的に増加することがわかった.このことは,狭窄率が多少増加するだけで,流量分配率が大きく変化することを示している.また,一呼吸周期中において,側気管支部が一方向流れになっている割合は,順に,0.64, 0.64, 0.76, 0.98, 0.99, 0.99であった.この結果から,狭窄率が増加すると,おおよそ一方向流れになることがわかった. 気管支周囲の平滑筋により狭窄率は10%程度変化することが知られている.これに鑑みれば,運動中などの酸素欠乏状態では,狭窄率を変化させることでより効率的に主気管支側へと吸入した空気を輸送することで,側気管支部にて一方向流れを形成し,効率よくガス交換を行っているのではないかと推察される.
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