研究課題/領域番号 |
26702018
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
高橋 宏信 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (00710039)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細胞シート / 組織工学 / 再生医療 / 筋組織 / 配向制御 / 神経細胞 / 血管内皮細胞 |
研究実績の概要 |
生体の構造(特に配向性)を模倣した筋組織モデルの構築を目指して研究を行った。具体的には、神経細胞および血管内皮細胞を筋芽細胞シートと共培養し、複数種の細胞によって構成された3次元筋組織を作製した。まず、パターン化温度応答性培養基材を用いてヒト骨格筋由来筋芽細胞が同一方向に配向した状態の細胞シートを作製した。次に、2枚の配向制御細胞シートを積層する際、ヒトiPS細胞より分化誘導した神経細胞およびヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞を細胞シート間に挟む形で共培養を行った。共培養5日後、神経細胞および血管内皮細胞は筋芽細胞シート組織内でそれぞれネットワークを形成していることを確認した。さらに、このネットワーク構造は筋芽細胞シートの配向性に依存した特異な方向性を持っていることがわかった。生体における骨格筋組織は配向方向の揃った神経/血管/筋組織によって構成されていることから、生体に近い構造を構築することができたと言える。 また、筋芽細胞シートの上に神経細胞・内皮細胞を播種した後に積層せずに培養したところ、これらの細胞はそれぞれ単独の種類のみで集合体を形成した。一方、別の細胞シートを上から積層して神経細胞・血管内皮細胞を挟み込むと、前述のとおり、2種類の細胞は組織内でネットワークを均一に形成することから、細胞シートが与える3次元環境が神経細胞および血管内皮細胞の自己組織化ネットワーク形成において必須であることが分かった。この細胞挙動のメカニズムは現時点で明らかになっていないが、細胞シート技術によって組織を層状に構築できる結果として3次元環境の重要性を示すことができた。 以上の結果より、細胞シート技術を用いて複数種の細胞からなる複雑な組織構造を制御することに成功した。この組織作製技術をベースとして、今後はそれぞれ神経・血管・筋としての機能化を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筋芽細胞シートからなる組織内で神経細胞および血管内皮細胞を共培養する手法を確立することに成功しており、また、その結果として組織内に形成される細胞のネットワーク構造を確認するに至っている。当初の計画どおり、観察された神経細胞ネットワーク・内皮細胞ネットワークはいずれも筋芽細胞シートの配向性を制御することで異方的な構造になっており、組織の配向性に着目した筋組織の形成という観点において成果をあげている。本研究において確立した組織の構造制御法は細胞シート技術の独自性を利用しつつ、技術的には比較的シンプルであり再現性も良い。したがって、簡便に同様の組織を効率よく構築できることから、この手法に基づいて組織を作製し、その機能化を目指すことで引き続き研究を遂行できると考えている。 さらに、組織の機能化についてもすでに着手しており、予備実験レベルではあるが筋収縮挙動を示す組織を作製することも可能となってきている。本研究の目標を達成するためのアプローチについてはいくつかの具体的な手法をすでに考案しており、その手順に沿って次年度も引き続き研究を遂行することができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は作製した筋組織の機能化に焦点を当てて研究を行う予定である。具体的には、筋組織・神経組織・血管組織としてそれぞれ機能するような、より成熟した組織を構築し、最終的には組織全体として機能する組織モデルとすることを目指す。 まずはじめに、配向した筋管組織を構築し、培地成分・培養期間等の条件を検討することで組織の成熟化を図る。外部より電気刺激することで筋収縮挙動を観察し、筋組織としての機能化を評価する。次に、神経組織と筋組織が生理的に相互作用するためのジャンクション形成を目指して培養条件を検討する。神経細胞の薬剤刺激等による活動電位の発生・伝達および筋組織の反応を確認することで評価する。さらに、当研究所において開発されたバイオリアクターを用いた組織の培養手法を参考にして、血管内皮細胞の成熟化(主に管腔構造の形成)を実現し、機能的な血管組織としての利用を目指す。血管網導入による効果については、細胞シートを積層することでより厚い組織を作製し、組織内部の細胞生存率から評価する。 以上のように、それぞれの細胞が組織として機能し、さらに相互作用することで筋組織全体として機能化することができれば、新規な組織モデルとして有用であると期待される。その有用性を確認するため、可能であれば特異的な疾患を持つiPS細胞から作製した神経細胞等をこの組織モデルに利用することについても検討する。
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