研究課題
課題:アジュバント関節炎(AIA)ラットにおける神経筋電気刺激(NMES)最適刺激条件の探索【目的】NMESによる筋力増強効果は負荷強度に依存するとされてきたが,近年,低強度でも十分な負荷量(時間)を確保すれば効果が得られることが示されている.そこで,本研究課題では,AIAラットにおいて,臨床に応用しやすい,低強度のNMESの効果を検討することを目的とした.【方法】Wistar系ラットを対照群及びAIA群に分け,それらをさらに低強度NMES群,高強度NMES群に分けた.AIA群には,完全フロイントアジュバントを注射し関節炎を惹起した.ラットの足関節をトルク測定装置に固定し,NMESを腓骨神経に負荷することで,足関節背屈トルクを測定した.NMESは,以下の刺激条件で行った.刺激強度:最大強縮張力の30%(低強度)あるいは60%(高強度),刺激頻度:50 Hz, on/off時間:2秒/4秒,刺激終了:最大上刺激(30V),セット数:3(休憩1分).NMESを1回/2日,3週間負荷した後,長趾伸筋を採取し分析に供した.【結果および考察】AIA群のEDLでは,強縮張力の低下が,アクチンの凝集体形成を伴っており,それらは,高強度NMES群において抑制された.一方,我々の予想に反して,低強度NMES群では,張力改善効果が認められなかった.近年,NMESの筋肥大効果が,負荷時間と負荷強度の積である力積に依存することが示されているが,本研究では,低強度NMES群における平均力積が高強度NMES群におけるものと比べ,2倍程度高値を示したにも関わらず,低強度NMES群による効果が認められなかった.したがって,そのメカニズムは不明だが,関節炎に伴う筋力低下を改善するためには,高強度の負荷刺激が有効であることが示唆される.
2: おおむね順調に進展している
本研究の全体構想は,関節疾患に対する安心・安全で効果的な介護予防対策法の開発を目指し,伸張性収縮を利用した,神経―筋電気刺激(NMES)療法による筋機能の改善効果とその作用メカニズムを明らかにすることである.平成26年度には,当初の研究計画に従い,関節リウマチモデル動物であるアジュバント関節炎(AIA)ラットにおいて,NMES最適刺激条件の探索を行った.研究実績の概要に記載した通り,予定された実験課題を実施することができたことから,現在までの達成度として,おおむね順調に進行していると判断した.本研究の結果,AIAラットの骨格筋で認められる筋張力の低下は,高強度のNMESにより改善されることが明らかとなった.一方,我々の予想に反して,低強度のNMESはAIAに伴う筋機能の低下を防止しなかった.これらの知見は,NMESによる筋機能改善効果が,負荷強度に依存することを示した先行研究と一致するものである.したがって,当初実施を予定していたNMES効果のメカニズム検討に関しては,低強度NMES群を除外し,対照群,AIA群及びAIA+高強度NMES群の3群を対象に実施した.その結果,大変興味深いことに,AIA群の長趾伸筋では,固有張力の低下がアクチンの凝集体形成を伴うこと,また,高強度NMESによりこれらが抑制されることが明らかとなった.高強度NMESによるアクチン凝集体形成の抑制作用が,どのような機序で生じるかについて,今後さらに検討を進める予定である.
関節リウマチ(RA)モデル動物であるアジュバント関節炎(AIA)ラットの骨格筋において,高強度の神経筋電気刺激(NMES)が,固有張力の低下やアクチンの凝集体形成を抑制することを示した平成26年度の研究結果は,NMESによる筋活動の増加が,酸化ストレスを軽減することで,RAに伴う筋力低下を防止するとする我々の仮説を支持するものであった.また,NMESの効果は,低負荷強度よりも高負荷強度の方が高いことが明らかとなった.したがって,平成27年度は,当初の予定通り,低刺激強度で,高強度の物理的ストレスを筋に負荷できる伸張性収縮(Ecc)-NMESがAIAラットの筋機能に及ぼす影響を検討する.一方,Ecc-NMESを負荷するために必要とされる,トルクセンサーを含む小動物用足関節運動装置は,予定では,平成26年度に発注・導入し,予備実験を行う予定であったが,機器開発に時間を要したため,今年度予算で対応することとした.現在の所,平成27年8月までには配備が完了する予定である.平成27年度の研究期間には,AIAラットにおいて,Ecc-NMESによる作用を,同強度の等尺性収縮によるものと比較するとともに,タンパク質の酸化的修飾や,抗酸化酵素などの,細胞内の酸化還元動態に関連する因子の測定を行うことで,その作用の分子メカニズムについて検討する予定である.
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Ann. Rheum. Dis.
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10.1136/annrheumdis-2013-205007