研究課題
本研究の全体構想は,関節疾患に対する安心・安全で効果的な介護予防対策法の開発を目指し,伸張性収縮を利用した,神経―筋電気刺激(NMES)療法による筋機能の改善効果とその作用メカニズムについて明らかにすることである.平成26年度には,関節リウマチモデル動物であるアジュバント関節炎(AIA)ラットの長趾伸筋において,固有張力の低下がアクチンの凝集体形成を伴うこと,また,高強度の等尺性NMESによりこれらが抑制されることが明らかとなった.平成27年度には,高強度の等尺性NMESにより,タンパク凝集化を抑制する作用を有する,低分子熱ショックタンパク質であるαB-crystallinの発現量が増加することが明らかとなった.一方,NMESは,スーパーオキシドディスムターゼやカタラーゼなどの抗酸化酵素の発現量を増加させないこと,また,タンパク分解において重要な役割を果たすプロテアソームの活性に影響を及ぼさないことが示された.したがって,NMESによるアクチン凝集体形成の抑制は,αB-crystallinの抗凝集化作用を介して生じた可能性が示唆された.また,平成27年度は,低刺激強度で,高強度の物理的ストレスを筋に負荷できる伸張性収縮(Ecc)-NMESがAIAラットの筋機能に及ぼす影響を検討することを当初の予定としていた.ただし,Ecc-NMESを負荷するために必要とされる,トルクセンサーを含む小動物用足関節運動装置の開発および改良に時間を要し,平成27年10月に稼働開始となった.これまでに,先行研究の刺激負荷条件を参考に,AIAラットに対し,足関節底屈筋を対象としたEcc-NMESを3週間負荷する実験を実施したが,底屈筋の発揮張力が低下するとともに,筋腱移行部付近に血腫が観察された.これらの知見は,本実験で用いたEcc-NMESによる負荷が過剰であったことを示唆している.
3: やや遅れている
研究実績の概要に記載した通り,予定された実験課題を実施することができたが,トルクセンサーを含む小動物用足関節運動装置の開発および改良に時間を要したこと,また,Ecc-NMESの効果の有無について,実験動物において,刺激条件を変更して引き続き検討する必要が生じたことから,現在までの達成度としてやや遅れていると判断した.
Ecc-NMESのパラメーターには,強度,角速度,時間,頻度,期間等があり,その組み合わせは無限に存在する.したがって,特に病理学的条件下におけるNMESの最適刺激条件の探索が容易に進展しないことは,当初から想定されていたことである.平成27年度の研究結果から,各パラメーターの中でも,刺激強度を調整する必要性が明らかになったことから,今後,異なる刺激強度条件におけるEcc-NMESの効果を,正常およびAIAラットを用いて引き続き検討していく.これらの実験の結果,Ecc-NMESの有用性が確認できれば,平成28年度内に,まずは,正常なヒトに対するEcc-NMESの効果について検討する予定である.
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 1件)
Ann. Rheum. Dis.
巻: 74 ページ: 1907-1914
10.1136/annrheumdis-2013-205007.
Skeletal Muscle
巻: 5 ページ: 20
10.1186/s13395-015-0045-7.
Physiol. Res.
巻: 64 ページ: 935-938
理学療法学
巻: 42 ページ: 819-820