低分子・中分子・生体高分子の三次元構造の簡便な解析法として、本研究ではVCD(赤外円二色性)分光法を用いた各種手法の開発・応用を行ってきた。とりわけ、申請者が以前の研究で現象として見出した「VCD励起子キラリティー法」の物理化学機構と適用範囲をさらに解明すべく、各種研究を行った。本手法は、分子内に存在する二つのカルボニル基の相互作用に基づくツインピーク型VCDシグナルの形状から各種分子の絶対配置や立体配座を決定する。 本年度は、本手法の適用範囲をさらに拡充し、低分子(Angew. Chem. Int. Ed.)、高分子・超分子(Polym. J.)について報告した。 一方で、VCD分光法が溶液中立体配座を詳細に解明できるという特性を活かし、VCD分光法を用いて分子の配座安定化効果の様式とその強さを見積もることが可能であるという新たな知見を得た。この知見は、J. Agric. Food Chem.や昨年度Chem. Commun.などで見出した。 以上の成果について、有機合成化学協会誌およびにBull. Chem. Soc. Jpn.(投稿中)にて報告した。 さらに、これまでカルボニル基に応用が限られていたVCD励起子キラリティー法について、昨年度までは主にアジド基について研究を行ってきたが、(置換型)アルキン基・イソシアノ基・ニトリル基についても、ビナフチル骨格や天然物を始めとする各種有機化合物に導入し、アジド基とニトリル基について特に良好な結果を得た。現在、理論的な側面も含めて、論文執筆中である。
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