研究課題/領域番号 |
26702036
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
成川 礼 静岡大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (30456181)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遠赤色光 / オプトジェネティクス / シアノバクテリオクロム / 蛍光プローブ |
研究実績の概要 |
本年度は、シアノバクテリアAcaryochloris marinaに着目し、長波長の光を吸収するビリベルジンを結合するシアノバクテリオクロムの探索を行った。Acaryochlorisは、光合成反応中心色素として、クロロフィルaよりも長波長を吸収するクロロフィルdを持つため、感知する光質も通常のシアノバクテリアよりも長波長にシフトしていると期待した。赤/緑色光変換型シアノバクテリオクロムに着目し、解析を進めたところ、AM1_1557g2というシアノバクテリオクロムが、PCBとほぼ同程度の結合効率でBVを結合し、BV結合型AM1_1557g2は遠赤色光と橙色光の間の光変換を示した (Narikawa et al. 2015 Sci. Rep. )。さらに、遠赤色光吸収型は、蛍光量子収率は低いものの、730 nmをピークとする蛍光を発した。また、AM1_1870g3も結合効率はかなり低いものの、BVを結合し、遠赤色光と橙色光の間の光変換を示した (Narikawa et al. 2015 Biochem. Biophys. Res. Commun.)。その吸収波長はAM1_1557g2よりも10-20 nmほど長波長シフトしており、変異導入によりBVの色素結合効率を高めることができれば、実用化のための有用性が高い。BV結合効率改善に向けたランダム変異を導入するために、大腸菌のコロニーレベルで、色素結合タンパク質を発現し、発色する系を確立することに成功した。 また、AM1_1557g2の色素結合領域をアデニル酸シクラーゼの触媒領域と繋いだキメラタンパク質を作製し、その光質依存的酵素活性を測定している。リンカー領域の長さを変えたバリアントを多数作製したところ、リンカー領域の長さの違いで、活性の強度や光依存性に変化が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、研究開始前に既にBVを結合することが分かっていたAnPixJg2への変異導入によるBV結合効率改善と、BV結合効率の高いシアノバクテリオクロムの新規探索という二つの戦略で並列して研究を進める計画であったが、研究を開始してすぐに、後者の戦略において、BV結合能の高いシアノバクテリオクロム・AM1_1557g2を発見することに成功した。そのため、AM1_1557g2の機能解析を行い論文として発表することを優先して進めた (Narikawa et al. 2015 Sci. Rep.) 。しかし、それでもPCBの結合効率に比べると60%程度であるので、AM1_1557g2を土台として変異導入を進める予定である。現在、AM1_157g2野生型をBV産生大腸菌で発現させて、コロニーレベルで目視により発色を確認できる培養条件を確立することに成功している。このため、ランダム変異を導入するための準備が完了したといえる。当初の計画では、蛍光の量子収率が高いクローンを得る実験に初年度から取りかかる予定であったが、AM1_1557g2という非常に高効率にBVを結合するシアノバクテリオクロムの取得に成功したため、その機能解析を行うことを優先した。 また、60%程度とはいえ、高効率にBVを結合するAM1_1557g2を得ることに成功したため、これを土台として、アデニル酸シクラーゼとのキメラタンパク質作製・活性測定の系も確立した。この研究については、二年目以降に行う予定であったため、その点では、想定以上に進展しているといえる。 以上のことから、想定より進んでいない研究と想定以上に進んだ研究があり、全体としては当初の予定通り順調に研究が進んだと自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究において、BV結合型AM1_1557g2の発見、AM1_1557g2を土台とした変異導入のためのスクリーニング確立、アデニル酸シクラーゼとのキメラタンパク質の作製・活性測定を行ってきた。そこで今後は、まずは変異導入により、BV結合効率向上と蛍光量子収率向上を目指す。そのために、結合や光変換に重要である、テトラピロールのA環とD環近傍のアミノ酸に着目して、ランダム変異を導入する。コロニーレベルでの発色と蛍光を指標として、スクリーニングを行う。スクリーニングにより、コロニーレベルで発色や蛍光の改善が見られたクローンについては、配列決定しつつ実際にタンパク質を精製し、その機能を評価する。特定した変異をAnPixJg2の既知構造にマッピングし、変異と構造との相関を議論し、そこから更に部位特異的変異導入を行い、高性能化を目指す。 蛍光量子収率が改善したクローンが取得出来た場合、動物の培養細胞でそれぞれのオルガネラマーカータンパク質とともに発現し、実際の分子の局在を可視化できるかどうか検討する。 アデニル酸シクラーゼとのキメラタンパク質については、さらにバリアントを作製し、光質依存的な活性調節がより厳密なタンパク質の取得を目指す。最も高性能なタンパク質に関しては、動物の培養細胞での、ルシフェラーゼアッセイ系を行い、動物での適用が可能であるかどうか検討していく。アデニル酸シクラーゼとのキメラタンパク質の研究に関しては、今年度中に論文としてまとめることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究員を雇用することにしたが、雇用した研究員が、これまでは分子生物学や生化学を行ったことはなく、低分子化学や分析化学を専門としてきていた。この研究プロジェクトでは、分子生物学と生化学的手法が必須であるが、研究員の持つHPLCを扱う分析技術もまた非常に大きな戦力となる。そこで、雇用当初は分子生物学や生化学を学んでもらい、それを習得後、HPLCを駆使した研究を行ってもらうように考えた。このため、初年度は、雇用のコストを抑え、分子生物学・生化学を習熟した後に、雇用コストを拡大することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
研究員は、無事、この一年間で分子生物学と生化学の基本的な技術を習熟しているが、未だ非常に高度な技術を習得したとは言えない。そこで、二年目、三年目と技術の習熟度に合わせて、段階的に雇用コストを拡大して行く予定である。
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