近年Channelrhodopsin-2やTrpA1 channelなどを用いた神経細胞の賦活化/活動抑制により、特定の神経ネットワークの活動と行動との因果関係が明らかになってきている。ショウジョウバエを用いた研究では、そのシンプルな中枢神経系と、ゲノムワイドに作成・公開されている発現ドライバーの活用により、行動を制御する神経細胞の活動が1細胞レベルで解明されてきている。 行動を制御する神経ネットワークが明らかになる一方で、行動の発現を担う神経活動に至るまでの分子メカニズムは依然としてブラックボックスの状態である。また、上記遺伝学的ツールは強制的な神経活動を誘導しているため、生理的な影響を観察しているとは言い難く、また分子基盤が不明なままでは薬理学的介入による病態治療などにはつながりにくい。 そこで、本研究課題においては、遺伝学的に化合物の薬理活性を制御する新たなシステムを構築し、時期・組織特異的な細胞機能制御をショウジョウバエをモデル動物として実装し、睡眠覚醒の分子メカニズムを明らかにすることを試みた。 今年度は特定の酵素を発現するトランスジェニックラインを用い、個体レベルでの行動制御ができるかを検討した。TH-GAL4ラインを使用することで、ドーパミン神経細胞特異的に当該酵素を発現したショウジョウバエに修飾化合物を経口投与したが、睡眠覚醒量においてコントロールと有意な差が認められず、投与経路や修飾化合物の検討が必要と判断した。また、化学修飾をしたフルオレセインを経口投与したところ、ショウジョウバエの腸管内において蛍光シグナルが認められ、腸管内で化学修飾が処理されていることが推測された。
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